11 和尚と小僧

 むがしあったけど。
 あるどさなぁ、お寺あっけど。ほうしてなぁ、ほの寺さ、和尚さんど小僧 (こんぞ) こぁ二人 (したり) いでぁったど。
 ほうしてなぁ、ほの和尚さんずぁしぴたれで、葬式だ、法事だなていうど、ほ れ、ほごの家 (え) がらお包みもらうべ。ほうすっど、ほのもらた御馳走 (ごつっつお) 、戸棚さ入 (へ) で おえで、夜んま小僧こぁだ寝でがら、自分 (おわ) 一人ばりして食て、小僧こぁだどさな の、さっぱり食 (か) へねぁあだけど。んだはげぁぇ、仕方ねぁ、小僧こぁだ、和尚さ ん法事さなの招 (よば) っでえて、いねぁぐなたっていうど、戸棚さがして、盗み食 (ぐ) いす んなだけど。
 んでも、盗み食いすっど分るおんだはげぁぇ、戸棚の戸開げでおえで、鼠ぁ入 (へあ) ん なみでで、戸閉めで、鼠ぁどご戸棚の中さ入 (へ) でおぐなだけど。
 ほうすっど、和尚さん帰ぇて来て、戸棚の戸開げっど、鼠ぁ、ぼえら出はてく んべ。ほうすっど和尚さん、
「あらっ、まだ鼠ぁ入 (へあ) たちゃは、んでぁ、まだ食 (か) っだは」
 ていっがったど。
 ある時、和尚さん、檀家がら甘酒もらて、戸棚の瓶こさ入 (へ) で、さっぱり小僧こぁ ださ飲まへねぁけど。ほんで小僧ぁだ、夜んまこっそり隙見してみっだば、和尚 さん、ほの甘酒、囲炉裏さ、鍋かげで、温めで、自分ばり、んめぁそんして飲で だけど。
 次の日、和尚さん、檀家の法事さ招ばっで、出はて行 (え) たど。ほうすっど、小僧 (こんぞ) こ だ、あのんめぁ甘酒、今日ごそ飲んでくんねぁんねぁど思 (も) ていだど。んでも、和 尚さん出はて行ぐ時、
「小僧小僧。戸棚の瓶こさ、白え水ぁ入 (へあ) ったども、あれぁ、あんまり鼠ぁ戸棚さ 入て、戸棚の物 (おの) 食うはげぁぇ、鼠殺すべど思 (も) て毒入 (へ) っだなだはげぁぇ、恐 (おか) ねぁは げぁぇ、飲だりしてぁ駄目だぞ」
 て言 (ゆ) て行たけど。
 んだて、小僧こぁだ、甘酒だて覚 (おべ) っだべ。んだおんださげぁぇ、ほの瓶こ、戸 棚がら出して、先ず一口飲でみだど。ほしたば、とでもんめぁずおんや。んだお んださげぁぇ、もう一口飲でみだど。んだて腹痛でぁぐならねぁべ。んだおんだ さげぁぇ、もう一口、もう一口て、みな飲でしまたけどは。
 ほうして、飲でしまてがら、小僧こぁだ、
「ああ、みな飲でしまたは、困たちゃ困たちゃ」
 ていだけど。
 んだて、みな飲でがらだば、なんずもしょぁねぁんだし、先ず、瓶こ戸棚さ入 (へ) で、 二人 (したり) して考えだど。ほうして、和尚さん帰ぇて来んな待ぢっだど。
 ほうしているうづん、暗ぐなて、和尚さ帰ぇて来たけど。ほうして、帰ぇて来っ ど直ぐ、戸棚の戸開げで、瓶こ見っだけど。ほしたば、ほれ、小僧こぁだみな飲 でしまたおんだおん。甘酒なのさっぱり入 (へあ) てねぁべ。ほうすっど和尚さん怒 (ごしぇあ) で、
「小僧小僧。この瓶こさ入 (へあ) った甘酒みな飲でしまたなっ」
 つけど。ほんで小僧こぁだ、
「ほういうおの、俺 (おら) 知らねぁな」
 て、知らねぁふりしったど。ほしたば和尚さん、
「知らねぁじゅあねぁべな。んでぁなしてなくなた」
 ていうけど。ほんで小僧こぁだ、
「んだて和尚さん、鼠殺す毒だけぁぇ飲むなて言 (ゆ) たべ。ほだおんださげぁぇ、俺 達恐 (おか) ねぁくて、見もしねぁんだはげぁぇ。」
 て、どごまでも知らねぁふりしたば、
「んだら、なえだてなぐなた。あんげぁぇえっぺぁ、鼠なの飲めるおんでねぁべ な」
 ていうけど。ほんで小僧こぁだ、
「ほう言 (ゆ) えば、なんだが、本堂の方で、がだらがだらて音ぁすっけぁ、お釈迦さ まのどぁ乾ぁぇで、ほの甘酒飲でえたなんねぁべが」
 て言 (ゆ) たど。ほうすっど和尚さん、
「んだが、んでぁ、お釈迦さまさ聞で来んべ」
 ていうど、本堂さ行で、木魚ただぐ棒持 (たが) て、
「お釈迦さんお釈迦さん。戸棚の甘酒飲みぁしたが」
 て言 (ゆ) いながら、お釈迦さんどご、ほの棒でただえだど。ほしたば、唐 (から) 金 (がね) で作た お釈迦さまぁ、「かぁん、かぁん」ていうけど。ほんで和尚さん、
「本当 (ほんとん) 食ねぁですべな」
 ていうど、まだただえだど。ほうしたば、まだ、「かぁん、かぁん」て、お釈迦 さまいうおんだはげぁぇ、和尚さん、
「ほれみろ。お釈迦さまなの、かねぁかねぁていうんねぁが」
 ていうおんださげぁぇ、小僧こぁだ、
「いや。お釈迦さまにちげぁぇねぁ。足音ぁ、本堂の方がら、和尚さんの室の方 さ来た音だけおん」
 て言 (ゆ) たべ。ほうすっど和尚さん、
「んだが、んでぁ、ただえでも駄目だば、煮で聞でみんべ」
 ていうど。台所 (だいどご) さ大鍋かげで、水えっぺぁ入 (へ) で、ほれさお釈迦さまどご入 (へ) っで 煮だど。ほのうづん、お釈迦さま煮 (ね) えできて、
「くった、くった、くった、くった」
 ていうけど。ほんで和尚さん、
「ははぁ、やっぱり食ったが。お釈迦さんだば、これぁなんともしょうねな」
 ていうけど。ほんで小僧こぁだ叱 (ごしゃ) がんねぁがったど。とんぴん からんこぁ  ねぁっけどは。
(話者 舟生カネヨ)
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