5 舌切り雀

 むがしあったけど。
 むがし、あるどさなー、爺さまど婆さまぁいだけど。ほうして、爺さまぁ、雀 一匹大事 (であえじ) んして飼てだけど。ほの雀こぁなづで、爺さま肩さでも、手出へば手さ でものんなだけど。んだはげぁぇ、家ん中さ離しておぐなだけど。
 ある時 (づぎ) なー。爺さま畑さ行て、婆さまぁ、障子の張り替 (げ) ぁぇしったがったど。
ほうして、婆さまぁ糊練 (ね) て、古い障子紙はがしていだど。ほうしてるうづん、雀 こぁ、婆さま練ておえだ鍋この糊、ぺろっとみな食てしまたけどは。婆さま新し 障子紙張んべど思 (も) て、糊みだば、鍋この縁さ雀こぁ上がてで、糊ぁさっぱりなぐ てだべ。婆さまぁごしぇで、
「この畜生ぁ、糊みな食てしまて」
 ていうど、雀こぁどご捕 (しめ) で、雀こぁ舌、鋏ではさでしまたけどは。雀こぁ痛でぁ がて、ちゅうちゅう鳴ぎながら、川の向うの、栗林の中さ飛で行てしまたけどは。
畑にいだ爺さまぁ、自分家 (おわえ) の方がら、雀こぁ鳴ぎながら、頭の上 (ゆえ) 飛で、川の向う さ行てしまたはげぁぇ、雀こぁ何したおんだべて家さ行て、
「婆さま婆さま。雀こぁ鳴ぎながら飛で行ぐけぁ、何したおんだや」
 て、婆さまどさ聞だど。ほしたば、婆さまぁ、
「あんたおのぁ、あったおんでねぁ。私 (しと) ぁ障子貼んべど思 (も) て作た糊、ぺろっと食 てしまて、障子貼らんねぁぐなてしまたはげぁぇ、ごしゃげっさげぁぇ、舌切て 放してやたあだ」
 ていうけど。ほうすっど、爺さまぁ、むぞせぁぐなて、
「なえだて、糊食たくれぁで、舌なの切たながは、むぞせぁごどしたおんだ。ま ずさがしてこねぁんねぁ」
 ていうど、爺さまぁ、橋渡だて、川向うの栗林んどさ行て、
「俺ぁ家の舌切らっだ雀こぁ、どさ行たべ」
 て呼ばたど。ほうしたば、林の奥の方がら、めんごげだあねこぁ出はてきて、
「爺さま爺さま。俺ぁ家ぁこっつだ。えぐ来てくっだごど。まずまず、俺ぁ家さ行 (あえ) でころ」
 て、爺さまどご、自分家さ連 (つ) で行たけど。ほうして、爺さまどご、奥の間さ坐 らへで、
「爺さま爺さま。今 (えま) まで爺さまに大事にして、面倒 (めんど) みでもらたはげぁぇ、今日ぁ ご馳走 (つっお) すっさげぁぇ、ゆっくりして行てころ」
 て言 (ゆ) て、ご馳走えっぺぁ出して、爺さまどさ酒こ飲まへだけど。
 ほうしてるうづん、あねこぁ達 (だ) ぁぞろぞろど出はてきて、唄こはうだう、踊り こは踊る。種々の鳴り物ならして、どでもにぎやがんしてくっだけど。ほんで爺 さまぁ、面白 (おもへ) くて面白くて、時ぁ経 (た) づなも忘っで、ご馳走なてるうづん、晩方し めぁぇんなたけどは。ほんで爺さまぁ、
「おおぎんご馳走さんでしたは。晩方しめぁんなたはげぁぇ、帰 (けあ) ぇらへでもらいぁ すは。本当に面白がった」
 て、爺さまぁ帰ぇっどごだけど。ほしたば雀こぁ、
「爺さま爺さま。んでぁ、これお土産ん持て行てころ。この葛篭 (こうり) のうづ、重でぁ 方でも、軽い方でもええはげぁぇ、どっつが持て行てころ」
 つけど。ほんで爺さまぁ、
「ご馳走なた外ん、お土産までくっでくえんなが。気の毒だごどな。んでぁ、折 (へっ) 角 だはげぁぇ、ずんぎなしん貰て行ぐが。んでも、俺ぁ年寄 (としより) だはげぁぇ、軽え葛篭 の方あえげぁぇすは」
 て、軽え方の葛篭背負わへでもらて、川端まで雀こに送てもらて、家さ帰ぇた けど。
 ほうして、家さ行ぐど、
「婆さま婆さま、今帰ぇて来た。なんと雀こにご馳走してもらて、遅ぐなたは、 雀こぁ帰りしめぁん、お土産だて、こげぁぇた葛篭背負わへでくっだども、まず なえなおんだんだが、開げでみでくっちゃ」
 て、婆さま前さ、葛篭下ろしたど。婆さまぁ、
「ほう。ご馳走なた外ん、こげぁぇお土産までもらて来たながは。えがったな爺 さま」
 て言 (ゆ) いながら、ほの葛篭開げで見だど。ほうしたば、種々 (さまざま) の宝物 (たからおの) ぁえっぺぁ入 (へあ) っ たけど。ほんで爺さまど婆さまぁたまげで、たまげでいだけど。
 ほげぁんしてっどさ、隣りのめくされ婆んば、「お晩です」て来たけど。ほうし てほの宝物見だべ。ほうすっどたまげで、
「たまげだちゃ、たまげだちゃ。この宝物どから持て来たおんだ」
 て聞ぐけど。爺さまぁ、人 (しと) ぁええおんだはげぁぇ、
「俺ぁ飼てだ雀こぁ、婆さまの障子張る糊食てしまたどごだど。ほんで婆さまご しぇで、雀こぁ舌切て、放してやたぁだど。ほんで俺ぁ、ほれ聞ぐどむぞせぁぐ なて、雀こぁなんたべど思 (も) て、雀こぁ家さ行 (え) たば、雀こぁ、えっぺぁご馳走して くっで、帰ぇりしめん、お土産だて、呉っでよごしたぁだけ」
 て教 (お) へだど。ほしたば、隣りのめくされ婆んば、
「ほれぁええごど聞だ。んでぁ、俺ぁ家でもしてみねぁんねぁ」
 ていうど、自分家さふっとで行たけど。ほうして、自分家の爺ぁどさ、
「爺い爺い。今隣りさ行たば、雀こぁどから、えっぺぁ宝物もらてきったけ。雀 どさ糊食 (か) へで、舌切て、放してやて、雀家さ行てもらて来たぁだど」
 て聞がへだけど。
 ほうして次の日、雀こ捕 (しめ) できて、婆んば、むりむり糊食へで、舌切て放してや たど。ほしたば、やっぱり川向うの栗林さ飛で行たけど。ほうすっど、婆んばぁ、
「爺い爺い。雀こぁ飛で行たぞ。まず、早ぐ行て来え」
 て、爺ぁどご、雀こぁ家さやたけど。爺ぁ、
「雀こぁ家ぁ、どごだべなー」
 て、川向うの林の中さ行たば、やっぱりめんごげだあねこぁ出はて来て、
「爺さま爺さま。えぐ来てくれだ、えぐ来てくれだ」
 て、自分家さ連 (つ) で行 (え) て、ご馳走して、唄たり、踊たりして見へだけど。んでも、
爺ぁ、宝物早ぐもらいでぁくて、ゆっくりご馳走なてらんねぁぐなて、そんま酔 たふりして、
「なんとえっぺぁご馳走なてしまて、酔てしまたは、これ以上ご馳走なっど、帰ぇ らんねぐなっさげぁぇ、これで帰ぇしてもらいあすは」
 て、立たけど。ほうしたば、やっぱり雀こぁ、葛篭出してきて、 「なんにもねぁども、この葛篭お土産ん持て行てころ」
 て、軽え葛篭と重え葛篭ど出してきたけど。爺ぁ欲 (よご) 張て、
「んでぁ、折角だおん。重でぁ葛篭もらて行ぐが」
 て、重でぁ方もらて来たど。ほうして橋渡っどは、ほの葛篭ん中見でぁくて見 でぁくて、だまてらんねぁぐなて、下ろして開げで見だど。ほうしたば、中がら 蜂なの蛇なの蝦 (ふぐだ) 蛙 (びっき) 、ほれさ化物まで出はて来て、爺ぁ、蜂にぁ刺されんだが、 蛇にぁかづらえるんだが、痛でぁくて痛でぁくて、ほれさおかねぁもおかねぁく ておえんおえんて泣ぎながら家さ来たけど。
 婆んばも欲張りだおんだはげぁぇ、爺ぁ宝物背負て、そんま来 (く) んべどもて、着 物なのええな持て来んべていうなで、自分ぼろ着物みな堆肥 (こえ) 塚さふっとばしづげ で、腰巻もしねぁで、裸んなて、屋根の上さ上がて、股んどさばお椀こで蓋して、 爺ぁ来んな待ぢっだど。
 ほしたら、爺ぁ痛でぁくて、おえんおえんて泣ぎながら来たべ。ほうすっど婆 んばぁ、ほの声聞で、
「ああ、俺ぁ家の爺ぁだ、面白 (おもへ) くて唄がけで来るは」
 て見っだど。ほのうづん爺ぁ、近ぐさ来たべ、ほんでええぐ見っだば、爺ぁ何 にも背負わねぁで、泣ぎながら来んなだけど。
 ほれ見っど婆んばぁ、お椀こなのぶん投げで、屋根がら下りで、ごしぇでごしぇ で、ぶんぶんて、庭で裸足で、子供 (わらし) 達ぁだだこねるみでぁん、足ぶみして、わぁ わぁど、わげの分らねぁごど叫がんだけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけど は。
(話者 舟生カネヨ)
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