1 花咲か爺じい

 むがしあったけど。
 ある所 (ど) さなー、爺さまど婆さまいでぁったど。爺ぁまだなー、毎日 (にづ) 山さ木伐り ん行 (え) てっがったど。
 ある時 (づぎ) 、爺さまぁ、まだ山さ木伐りん行たば、山道さ犬こぁ落ぢっだけど。白 えなで、生っでがらまだなん日もただねぁよんだ、小 (ち) っちぇ犬こだけど。爺さまぁ、
「あらっ、こんた所 (ど) さ、犬こぁ落ぢっだおんだ。めんごえ犬こだごど」
 て、ほの犬こ拾ろて来たけど。ほうして、
「婆さま婆さま、山さ犬こぁ落ぢっだけはげぁぇ、拾ろてきた。まず見ろちゃ」
て言 (ゆ) たど。ほしたば、婆さまぁ、
「どれどれ」て出て来て、
「あらや、めんごえ犬こだごど」
 て見っだけど。ほして、
「えぐ拾ろてきてくっだごど。俺 (あら) だわらしたづぁいねはげぁぇ、この犬こ育でん べな爺さま」
 ていうけど。ほしたば爺さまぁ、
「んだな婆さま」
 て、二人 (したり) ぁ大事 (であえじ) んして育でっだけど。
 犬こぁ、だんだん大っきぐなて、爺さま山さ行げば山さ、婆さま川さ行げば川 さ、どごさでも、後んなり先んなりつで歩ぐなだけど。んだおんだはげぁぇ、爺 さまも婆さまもめんごがて、自分 (おわ) わらすみでぁん大事んしていんなだけど。
 ほうしたば、ある時、家 (え) の裏の方で、犬こぁ、わんわんて鳴ぐ音ぁすっずおん。
ほうすっど婆さまぁ、
「爺さま爺さま。犬こぁめっぽう鳴ぐおんだ。あの鳴ぎ声ぁただ事んねぁよだ ぜぁぇ。まず早く行てみろちゃ」
ていうおんだはげぁぇ、爺さまぁ、なんだべど思 (も)  て、あたふたど裏さ行てみだ ど。ほうしたば、犬こぁ、わんわんて鳴ぎながら、前足 (めあえ) で土 (つづ) 掘てぁ、後 (あど) 足でけっ とばし、土さ穴掘ったけど。ほうして、爺さま行たば、爺さまもんぺ (はかま) くわぇで引 張っけど。ほんで爺さま、
「なんだや白。ほご掘れてが」
 て言 (ゆ) たば、犬こぁ、まだわんわんて、爺さまぁはがまさ前足かげで、爺さまど ご見ながら鳴ぐけど。ほんで爺さまぁ、
「よしよし、わがたわがた。までまで」
 ていうど、家さ行て鍬持てきて、ほご掘てみだど。ほうしたば、ほごさ大分 (であえぶ) 大っ き瓶こぁ埋 (んま) ったけど。
 爺さまぁ、
「なえだや。瓶こなの出はてきたおんだ」
て、ほの瓶こ引張り上げでみだど。ほしたば大判がら小判がら、宝物ぁえっぺぁ つまったけど。爺さま、どでして、ほれ家さ持てえて、
「婆さま、婆さま。まずまずたまげだ。まず見ろ」
 て、ほの瓶こ婆さまさ見 (め) へだば、婆さまもたまげで、
「これぁなえだおんだや。どから持てきたおんだ」
 て、どでしてみっだけど。爺さまぁ、
「白ぁ、わんわんて鳴ぐけべ、んだはげ行てみだべ、ほしたば白ぁ、土掘ている おんだはげぁぇ、こご掘れてがて、ほご掘てみだなよ。ほしたば、この瓶こぁ出 はてきたけなよ」
 て、二人ぁたまげでいだけどは。
 ほうして、ほの瓶こあげで、金ど宝物わげで勘定 (かんじょ) しったけど。ほしたばほごさ、
隣りの欲 (よご) 張り爺んじぁ、
「はえっとー」
て来たけど。ほうして、爺さまど婆さまぁ、大判なの小判なのちょしった(い じっている)べ。ほれ見でたまげでは、
「あらあらっ。なんだやお前家 (めあええ) であ、何時の間 (こめあん) ほんげぁぇ金持んなたおんだや。 ほの金何所 (ど)から持て来たおんだや」
て、なんべんも聞ぐおんだはげぁぇ、人のえ爺さま、
「裏で白ぁ、こご掘れてあんまり鳴ぐおんだはげぁぇ、ほご掘てみだば、これあ 出はてきたあだけ」
て教 (お) へだど。ほしたば、隣りの欲張り爺んじぁ、
「ほげぁぇたごどして持て来たながー。んでぁ、白どご俺どさも貸へ。俺も掘て みっさげぁぇ」
て貸すても言 (ゆ) わねぁな、白どごむりむり連 (つ) で行てしまたけどは。
ほうして、白ぁ嫌 (や) だていうかまわねぁで、自分家の裏さ連で行て、
「白っ此処がっ、白っ此処がっ」
 て、あっちこっち引張て歩 (あり) て、白ぁながねぁおんだはげぁぇ、首さつけっだ縄、 ぐえぐえど引張たべ。すっど白ぁ痛でぁおんだおん、きゃんきゃんて鳴 (ね)ぁだべ。
ほうすっど、
「此処が、此処が」ていうど、掘れても言 (ゆ) わねどご、鍬 (か)で、でぁでぁんど掘たど。
 ほうしたば、がしゃがしゃど瀬戸 (へど) かげなのばり出はてきて、金目のものなの、 何も出はらねぁけど。
 ほうすっど隣りの欲張り爺んじぁごしぇで、
「このめくされ畜生 (ちきしょ) ぁ、俺ぁどさば何にもええおの出さねぁで、瀬戸かげなのば り出しあがて」
 ていうど、白ぁどご、鍬 (か) でばえんばえんしばだぎづげで、殺してしまたけどは。
 んだおんだはげぁぇ、なんぼしたて、白ぁどご返 (けあ) ぇさねぁべ。ほんで爺さま心配 (すんぺあ) して、隣りさ、
「白ぁどご貰いんきた。白あどごにいだべ」
 て行たば、隣りの欲張り爺んじぁ、
「あんた畜生ぁ、あるおんでねぁ、俺ぁどさ瀬戸 (へど) かげなのはんて出しあがらねぁ で、あんまりごしゃげっさげぁぇ、ぶっ殺して投 (ぶな) げできた」
 ていうけど。ほんで爺さま、
「なんだて殺したながは、むぞせぁぇごど」
 て泣ぎながら、白ぁどごさがして、ていねん埋 (んめ) でおがだけど。ほうして、ほご さ松ぬ木 植 (ぎゆ) えだけど。
 ほうしているうづん、ほの松ぬ木ぁうんと大っきぐなたけど。ほんで爺さま、
「まずまず、この松ぬ木ぁ大っきぐなたおんだ。こんげぁぇ大っきぐなたおんだ おん、これで臼でも掘っが」
 て、ほの松ぬ木で臼掘たど。
 ほうして、ほの臼で米搗ぎしたど。ほしたば、つぐ度ん、大判なの小判なのえっ ぺ出はてきたけど。爺さま、どでして、大っき声で、
「婆さま、婆さま。まず来て見ろ、まず来て見ろ」
 て叫 (さ) がだど。ほしたば婆さまぁ、爺さまぁ、あんまり大っき声で叫がおんださ げぁぇ、何事ぁ起だど思 (も) て、
「なえだやは爺さま」
 て言 (ゆ) いながら表さ出はて見たど。ほうすっど爺さまぁ、
「まず、これ見ろ」
 て、臼ん中見 (め) へだべ。ほうすっど婆さまたまげで、たまげで、眼 (まなぐ) 丸こぐしった けどは。ほごさ、隣のへちゃへちゃ婆んばぁ、隣りであめっぽう大っき声出して 騒ぐおんだ、なになおんだべど思 (も)  て、出はて来たけど。ほうして、
「ほんげぁぇ大騒ぎして、ないだや」
て、そばさ来て見で、臼ん中見たべ。婆んばどでしてしまたけどは。んだべ、 臼ん中さ大判がら小判なの、沢山 (すこであま) 入 (へあ) ていたおんだおん。ほんで隣のへちゃへちゃ 婆んば、
「なしてこんげぁぇ金ぁ出はたなや」
 て聞ぐけずおん。ほんで爺さま、
「この臼で米搗いだら出はたなだ」
 て教へだど。ほしたば、婆んばぁ、ばだばだと自分家さ走して行て、
「爺い爺いっ。まず来てみろ。隣りの家でぁ、米搗きしたば、大判がら小判、えっ ぺぁ出はたどて、大騒ぎだけぜぁぇ。俺ぁ家でも早ぐあの臼借っできて、米搗い でみろちゃ」
 て、あがりがまちんどごで叫 (さ) がぶけど。ほうすっど欲張 (よごば) り爺んじぁ
、 「んだがっ」ていうど、あしだが(足高)つっかげで、走して行て、隣りの爺さ まどさ、「ほの臼貸 (か) へ」ていうど、貸すとも言 (ゆ) わねぁな、まだむりむり持て行てし またけどは。
 ほうして、自分の家さ持て来っど直ぐ、
「婆んばぁ、米もてこえ」
 て、米持てこらへで、搗ぎ始めだけど。
   隣りんなよりええおのぁ出はれ
   隣りんなよりええおのぁ出はれ
 て叫がびながらつっだけど。ほしたば、臼ん中で、がらからっ、びちゃびちゃっ。 がらからっ、びちゃびちゃっていうけど。欲張り爺んじぁ、ほれもかまわねぁで、 まだ搗 (つ) だど。ほしたば、まだ、がらからっ、びちゃびちゃっていうけど。ほんで 爺んじぁ臼の中みだば、瀬戸 (へど) かげがら、牛 (べご) の糞なの、臼ぁえっぺぁなるほど出は てだけど。
 ほうすっど欲張り爺んじぁ、ごしぇで、
「なんだ、この糞たれ臼ぁ」
 ていうど、まさがり持てきて、どえんどえんど、ほの臼割てしまたけどは。ほ うして、ほの臼みな燃やしてしまたけどは。
隣りでぁ、あんまり臼持て来ねおんだはげぁぇ、爺さまぁ、臼もらいん行たど。
「まだ、つがねぁんね米ああっさげぁぇ、臼もらいん来た」
 て行たば、隣りの欲張り爺んじぁ、
「あんた臼ぁねぁおんだ。瀬戸かげがら牛の糞はんて出しあがねらねおんだおん。 んだはげぁぇ、みな割て焚 (てあ) でしまたは」
 ていうずおん。隣りの欲張り爺んじぁ、ごしぇでみな燃やしてしまたていうん だし、なんずも仕方ねぁくて、ほの臼燃やした灰 (あぐ) もらてきたど。
 ほうして、ほの灰、犬こ埋 (んめ) っだあだりさ、ざえっとかげだど。ほしたら、ほご らあだりの枯木さ、あっていうこめぁぇん、みな花咲 (さあ) えだけど。爺さまどでして しまたけど。ほんでこれだば、殿さま来た時 (づぎ) 見へねぁんねぁ。ど思 (も) て、殿様来ん な待ぢっだど。
 ほうしているうづん、ある時、殿さま来たけど。殿さま、えっぺぁ家来連 (つ) で、 行列つくて、向うがら来っけど。ほんで爺さまぁ、大っき声で、
「花咲が爺んじ、花咲がへで見 (め) へぁす。花咲が爺んじ、枯木さ花咲がへで見へぁ す」
 て、殿さまの行列さ叫がだど。ほしたば殿さま、
「なにっ。枯木さ花咲がへるて、それは面白い。んだら咲がへでみろ」
 て、殿さま、行列止めで見っだど。ほうすっど、爺さまぁ、
「この枯木さ、みな花咲げっ」
 ていうど、枯木さ、ざえっと灰撒 (めあえ) だずおん。ほうしたば、ほごらあだりの枯木 さ、みな花咲 (せ) ぁぇだけど。
 ほんで殿さま喜ごで、扇開ぁぇで、「見事、見事」て賞めでくっで、ごほうびえっ ぺぁくっだけど。
 隣りの欲張り爺んじぁ、ほの話聞ぐど、臼焚 (てあえ) た残りの灰 (あぐ) 、がえがえどかっつぁ らて、殿さま来んな待ぢっだど。自分 (おわ) も枯木さ花咲がへで、ごほうび貰いでぁく てだど。
 ほのうづん殿さま、まだ行列つくて来たけど。すっど爺んじぁ喜ごで、行列の そばさ行て、
「花咲が爺んじぁ、枯木さ花咲がへで見へぁす」
 て、叫がだど。ほしたば殿さま、行列止めで、
「よし。それでは咲がへでみろ」
 て、殿さまがいうど、欲張り爺んじぁ、灰すこでぁまつかで、
「枯木さ花咲げっ」
 ていうど、ざえっと撒ぎ、
「枯木さ花咲げっ」
 ていうど、灰すこでぁまざえっと撒 (めあ) だべ、んだて花なのさっぱり咲がねぁで、
ほの灰ぁ、殿さまの眼 (まなぐ) さなの、家来達の眼ばり入 (へあ) てしまたあだけど。
 ほうすっど殿さまごしぇで、
「この嘘 (ずほ) こぎ爺んじぁ、えぐねぁ爺んじだ。捕えで百ただぎんすろ」
 て、たぁだすこでぁま叩がっで、起ぎるもなにも出来 (でげ) ねぁで、泣ぎながら、うー うーんてうなてだけどは。
 んだはげぁぇ、欲張たて駄目だおんだど。とんぴん からんこぁ ねぁっけど は。
(話者 高橋久雄)
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