10 六地蔵さま

  むがしあったけどよ。むがしある所 (ど) さ、正直だ爺さまいでぁぇったどよ。ほの 爺さま、毎日柴伐ってきてあ、ほの柴背負てえてぁ売って暮していでぁったどよ。
 ある時 (づぎ) 、寒 (さみ) ぐなてがら、まだ山さ柴伐りんえて、柴伐って、長嶺 (ながね) 越えで、柴売 りん行 (え) たどよ。ほうしたら、六人の地蔵さま立てだけどよ。雪も降ってだべ。ほ んで爺さま、
「この雪降りに地蔵さま、なんぼが寒 (さみ) べぁ」
 どて、町さ行て、ほの柴売て、ほの金で笠買たど。ほうしたどごろが、笠五つ はんてねぁくて、五つはんて買うよねぁがったんだどよ。
 ほうして、ほの笠持て、地蔵さまんどごまで来て、ほうして、ほの笠五人の地 蔵さまさかぶへだども、一人分足んねぁべ。ほんで爺さま困まて、ほれでこんだ、
「お前どさばり何も被ぶへねぁで行 (え) がんねぁ、仕方ねぁ、俺ぁ首巻かぶへで行ぐ はげぁぇ、わりぐ思わねぁぇで、我慢してけろは」
 て、自分首巻ほどえで、ほれ被ぶへできてあったどよ。
 そうして、家さ行たど。ほうしたば、今正月あくるていう時なおんださげぁぇ、 婆さま石臼 (ひぎうす) ひで待てだけどよ。ほさ爺さま、
「婆さま、婆さま。今来た」
 て行 (え) たどよ。ほうしたば婆さま、
「なんたおの買て来たや爺さま」
 つけど。ほんで爺さま、
「こういう地蔵さまいで、あんまりかわいそうだし、俺だ子供もいねぁんだし、 ほの地蔵さまさ、柴売て、笠五枚 (ごんめあえ) 買て、かぶへだども、一人分足んねぁおんだは げぁぇ、自分首巻かぶへできた。んだはげぁぇ何も買て来ねぁ」
 て。したら婆さま、
「あー、んだがんだが。んでぁえがった。爺さまど俺ぁ食ねぁばえなだおん。あー、 えがったえがった」
 て、ほうして、二人ぁ練 (ね) たけぁぇ餅食て、正月して寝で休んだどごで、小正月 なて、十五日んなたけどよ。ほれがら爺さま、
「年越し近ぐ地蔵さまさ、こういうごとしてあった、あー、あの一人の地蔵さま にうらみされる」
 ど思 (も) て、わざわざ柴伐りん行て、ほの柴売て、笠一つ買てかぶへでこねぁば、仲間 (なかば) 喧嘩 (くくれあ) されすっど大変だて、柴伐て、ほれ売て、笠買てかぶへできて、
「婆さま婆さま、まず笠買て地蔵さまさかぶへできた。まずまずえがった。これ でうらみこなすかぶへだ」
 て帰 (けあ) えて行たどよ。ほしたば婆さまも、
「あー、えがったえがった」
 て、二人ぁ、まず、安心して、あるおので飯 (まま) 食て寝だど。
 ほうしたば、まだ寝づがねぁうづん、
「正直だ爺さま家ぁ此処だが。正直だ爺さま家ぁ此処だが」
 ていう声ぁすっずおん。ほんで爺さま起ぎでみだどよ。ほうしたば、ほれぁ六 人の地蔵さまだけどよ。
 ほうして、
「あー、あー。おらだ爺さまに親切 (すんへづ) ん笠をいだだいで、誠に有難でぁがった。そ んで、お爺さんどさも、我々ぁ心すねぁくてぁなんねぁど思 (も) て、来たあだ」
 て、六人して、食う物 (おの) がら何がら背負てきて、
「これぁ我々の心だはげぁぇ、婆さまど二人して食べでころ」
 て、そうして、そごさどっさり置えで帰えて行 (え) たけどよ。
「あー、あー。婆さま婆さま。まずまず、こうゆうふうして、あの地蔵さま達 (だ) 持 てきてくっだ。もってぁねぁ、ただ口開 (あえ) で食んね」
 て、ほうして、ほれ開 (ひ) れぁでみだんだどよ。そうして、みだどごで、それぁみ な米がら金がら宝物がら、ほれごそえっぺぁ入 (へあ) ったあだけどよ。
 そうして、婆さま、
「あーあー。爺さま爺さま。これぁ地蔵さまがら、ただ頂いでぁでげねぁ。今度ぁ、 町さ行て、この金で、餅米二升も買て、こうして餅つえで、地蔵さまさ食 (か) へねぁ ばでげねぁ」
 ていうなで、爺さま町さ行て、餅米買てきて、餅つえで地蔵さまさ食へだどよ。
 そうして、二人ぁ、
「地蔵さまがら貰た金だおの、この金無駄にぁ使わんねぁ。大事 (であず) んすねぁんねぁ。 我々ぁ子供もだねぁ、地蔵さま、きっと死にしめぁぇん使えて、くっだななんだ はげぁぇ、決して無駄にぁ使わんねぁ」
 て、大神宮さまさ上げで、大事んしったけどよ。
 そうして、今までぁ貧乏で、皆にやすめらっでいでぁったども、今度ぁ金えっ ぺぁ持て、えぐなて、ほれごそ長者んなて、ほごで暮しったけどよ。
 そうしていだどさ、ほの爺さま家 (え) さ、好き連れ (それづぎ) (駆落ち者)だな来て、
「爺さま爺さま。お前家で子供もいねぁよだし、俺達 (おらだ) 二人ぁ行ぐどごもねぁし、 俺達ぁ、二人ぁどご大事んすっさげぁぇ、俺達どご置えでくえらんねべが」
 て頼むけどよ。ほんで、見れば馬鹿でなさそうだし、まだ正直そうで、まじめ そうだようだはげぁぇ、
「ほっが、ほっが。んだばえ。入 (へ) れ入れ」
 て、自分家 (おわえ) さ入っで、二人どこ夫婦んさへで暮しったどよ。
 ほのうづん孫も出来 (でげ) で、爺さまと婆さまぁ、手車さっで(大事にすること)、な んにもしねぁで、安楽に暮したけどよ。とんぴんからんこぁねぁっけどは。
(話者 栗田チウ)
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