6 爺っつぁど鼠

 むがしあったけど。ある所 (ど) さな、貧乏だ爺っつぁど婆っつぁいでぁぇったど。 冬んなて雪ぁ降 (ふ) てがら、爺っつぁ家 (え) さ、鼠こぁ一 (えっ) 匹入 (へあ) てきたけど。
 ほうして、室の隅 (すま) こで寒 (さ) みそんしてふるえっだけど。ほんで爺っつぁむぞせぁぇ ど思 (も) て、「あだれ、あだれ」て、囲炉裏 (ゆるり) さあでで、
「俺ぁ家ぁ貧乏だはげぁぇ、何にも食 (か) へるおのぁねぁ、これでも食て行ぐんだ」
 て、豆こ十粒ばり食 (か) へだど。ほうしたば鼠こぁ、ほの豆こんめぁぇそんして、 食ってぁ爺っつぁ顔 (つら) 見、食ってぁ婆っつぁ顔見で、食いあげっど、
「おかげさんで助かりあした」て言 (ゆ) わねぁばんだけど。
 次の日、爺っつぁ庭で豆調製 (こしえあ) しったば、豆こぁ一粒、ころころっと転でえぐけ ずおん。ほんで爺っつぁ、
「あらあら、豆こあ転がてえぐでぁは、もってぁぇねぁごど」
 て言いながら、ほの豆こ追 (ぼ) かげで行たば、ほの豆こあ庭の隅 (すま) この穴こさ、ころ ころっと入 (へあ) てえてしまたけどは。
 ほんで、爺っつぁ、ほの豆こ追 (ぼ) かげで穴こさ入 (へあ) てえたど。ほしたば、きれだあ ねこぁ出はてきて、
「爺っつぁ、爺っつぁ。まずまず、えく来てくれぁした」
 て、自分家さ連 (つ) で行 (え) たど。
 ほの家ずぁ、まずまず立派だ家で、爺っつぁなの、まだ見たごどもねぁよだえ え家だけど。ほうして、奥の座敷さ連で行がっで、床の間、うしろんして坐らへ だけど。ほうして、爺っつぁ坐っどあねこぁ、爺っつぁ前 (めあえ) さ来て、
「爺っつぁ、爺っつぁ。昨日 (きんな) 、大変ありがどさんでした。俺ぁ昨日爺っつぁに助 けらっだ鼠こです。今日ぁほのお礼んごっつぉしでぁぇどもて、きてもらたなで す。まずまず、えぐ来てくれぁした」
 て、頭下げでお礼いうけど。ほうして、ごっつぉえっぺぁ出して、酒こなの出 して注 (つ) でくっだけど。
 爺っつぁ喜で、えっぺぁごっつぉなて、
「おおぎんごっつぉなりあした。これ以上ごっつぉなっど帰 (けあ) えらんねぁぐなっさ げぁぇ、これで帰ぇらへでもらうは」
 て、爺っつぁ立たど。ほしたば、あねこぁ、
「爺っつぁ、爺っつぁ、帰えんながは、んだらしっとえぁまじでくんねぁが」
 ていうおんだはげぁぇ、爺っつぁなえだがど思 (も) て待ぢっだど。
 ほうしたば、あねこぁ瓶こ一 (しと) づ持て来たけど。ほうして、
「爺っつぁ。どうがこの瓶こ、家さ持てえてころ」
 ていうけど。ほんで爺っつぁ、
「まずまずは、えっぺぁごっつぉなたほがん、お土産まで貰らてがは。気の毒だ な」
 て、ほの瓶こもらて、家さ帰えて来たけど。ほうして、家さえたら、婆っつぁ、
「なえだて爺っつぁ、今 (えま) まで庭で豆こしぇぁしったけぁ、ほのうづいねぐなたけぁ、 何処さ行て来たおんだや」
 ていうけど。ほんで爺っつぁ、
「豆こしぇぁしったば、豆こぁ一粒ころころど転 (ころ) でえぐけはげぁぇ、もってぁねぁ ど思 (も) て、ほれ追 (ぼ) かげで行たば、豆こあ庭の隅この穴こさ入 (へあ) てえたおんだおん。ん だはげぁぇもってぁねぁどもて、俺も追かげで穴こさ入て行たば、昨日の鼠こぁ、 あねこんなて、昨日のお礼だて、えっぺぁぇごっつぉしてくっで、この瓶こくっ でよごしたけ」
 てゆたば、婆っつぁ、
「ほれぁえがったな爺っつぁ。んでもほの瓶こさ何ぁ入 (へあ) ったおんだや」
 て聞ぐけど。ほんで爺っつぁ、
「まだ開けでみねぁだ。婆っつぁお前開げでみろちゃ」
 て、ほの瓶こ婆っつぁどさ、つだしたど。ほんで婆っつぁ開げでみだど。ほう したば、ほの瓶こん中さ、大判がら小判なの、金ぁえっぺぁぇ入ったなだけど。 ほんで爺っつぁど婆っつぁ幸福 (しっしゃわへ) ん暮したけど。どんぴんからんこぁねぁっ けどは。
(話者 高橋良雄)
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