4 鬼婆んばむがし

 むがしあったけどー。ある所 (ど) さなー。うんとけちくせぁぇ男人 (おどごしと) ぁいだけど。ほ の人ぁ、かがに死なっでしまて、困まて、あどかが欲しくていでぁぇったど。
 んでも、けちくせぁぇくて、けちくせぁぇくて、自分 (おわ) かがどさせぁぇも、飯食 (ままか) へ んないだまし、どていう男でぁぇったど。んだおんだはげぁぇ、誰もあどかがん 来てくえるていう人なのいねぁがったど。
 ある時、ほの男人ぁ、峠の方さ行て木伐ていでぁったど。ほうして、昼ま近 (ちっ) けぁぇ ぐなたはげぁぇ、飯 (まま) でも食うべど思 (も) て、腰 (こす) 下ろして、にぎり飯 (まま) 出したら、ほごさ 知らねぁあねこぁ来て、
「お前、飯かねぁあねこさがしったったんねが」
 て聞ぐけど。ほんで、
「かがん死なっで、困ていたども、出来 (げ) れば飯かねぁかが欲 (お) しおんだどもていだ ども、ほげぁぇたあねこなの、どごさがしたていねぁおんだはげぁぇ、まだ貰い かねぁでいだ」
 て言 (ゆ) たど。ほしたば、ほのあねこぁ、
「んでぁ、俺あ飯なの食 (か) ねで、ただ働ぐばんだはげぁぇ、俺ぁどご貰てくんねぁ が」つけど。ほんで、ほの人ぁ喜で、
「んでぁ、どうが、俺ぁ嫁ん (わげあえ) なてくんねぁが」
 て、ほのあねこ貰て、自分 (おわ) 家 (え) さ連 (つ) で行たど。ほうして、二人ぁ一緒 (えっしょ) んなて暮しっ たども、ほのあねこぁ、飯なのさっぱり食 (か) ねで、うんと働ぐばり働ぐなたけど。 ほんで、ほの人ぁ、うんと喜でいでぁったど。
 んでも、おがしごどにぁ、自分家の米ぁ、自分食うよりうんと早ぐなぐなんな だげど。ほんで嫁 (わげあえ) どさ、
「なして、ほんげぁぇ早く米ぁなぐなんなだや」
 て聞だど。ほしたば嫁ぁ、
「鼠ぁうんといだはげぁぇ、鼠ぁ食うなんねがや」
 ていうけど。ほんでも、ほの人ぁ、鼠なのなんぼ食たてしっだおんだ。なんだ ておがしおんだど思 (も) て、ある時 (づぎ) 、
「今日ぁ、仕事でおそぐなっさげな」
 て、あねこぁどさ言 (ゆ) て、おわ仕事さ行 (え) ぐふりして、こそっと梁の上 (ゆえ) さあがて、 あねこぁなんたごどするおんだが見っだど。
 ほうしたば、あねこぁ、五升だぎ鍋さえっぺぁ米磨えで、どんどど火たえで、 ほの鍋かげで、囲炉裏 (ゆるり) で飯たぎ始めだけど。ほの人ぁたまげで見っだど。ほうし てるうづん飯出来 (げ) だべ。ほうすっど鍋下ろして、にぎり飯えっぺぁこしぇぁだけ ど。
 ほの人ぁ、にぎり飯あんげぁぇえっぺぁこしぇで、ないするおんだべど思て、 見っだば、今度ぁ、頭の髪の毛ほどえで、真中がらざえっと分だけど。ほうした ば、頭の真中さ大っき口ぁ出はたけど。ほの人 (しと) ぁ、どでして、どでして、も少す で梁が落っどごでぁぇったど。
 ほのあねこぁ、鬼婆んばだけどやー。今 (えま) まで鬼婆んば、あねこに化げっだな でぁぇったど。
 ほの人ぁ、おかねぁくて、おかねぁくて、梁の上 (ゆえ) でふるえっだど。んでも見っ だば、今度ぁにぎり飯一 (しとっ) つずつ、すとん、すとんど頭の口さ入 (へ) っでやて、五升炊 ぎ飯たぢまぢのうづん食てしまたけどはやー。
 ほうして、飯食うど、囲炉裏端 (ゆりばだ) さごろっと寝でしまたけどは。ほんで、ほの人ぁ 今 (えま) のうづだていうど、音しねぁよん、こそっと下りできて、裏さ置 (おえ) っだ、風呂 (すふろ) ど荷縄 (にんな) 持てきて、家 (え) さ入 (へあ) て行 (え) て、ほの風呂さ鬼婆んばどご逆さんぶぢごで、どんどど山 さ背負 (しよ) て行たど。
 ほうして、ずっと山奥さ背負て行たば、鬼婆んば風呂がら手出してよごして、 木の枝さたぐづえだけど。ほうすっど、ほの人ぁおかねぁぐなて、背負てだ風呂 どえんと、ほごさおろして、自分家の方さどんどんど逃げて来たど。
 ほうしたば、鬼婆んば、そんま風呂がら上がて、
「こらっ、野郎 (やろ) 待でー。野郎待でー」
 て追 (ぼ) かげで来たけど。ほんで、ほの人ぁおかねぁくて、おかねぁくて、命がげ んなて走して逃げだど。んだて鬼婆んば、
「こらー、野郎待でー。野郎待でー」
 て追 (ぼ) かげでくるおんだはげぁぇ、だんだん疲 (こわあえ) ぐなて、走らんねぁぐなたけど は。ほんで、なんずもしょねぁんだし、かぐれっどごあねぁんだがど思 (も) て、あだ り見だば、沼んどさ、しょうぶどよもぎぁえっぺぁおえっだどごあっけど。ほん で、ほの人ぁ、あそごだっど思て、ほごさ隠っだけど。
 ほうしたば、鬼婆んば、あっ野郎ぁあそごさ隠っだなて言うど、がさがさど、 ほごさ入 (へあ) て来たけど。ほの人ぁ、あらっ鬼婆んばに見つけらっだは、なんずした らえがべて、ふるえなが見っだば、鬼婆んばどさ、しょうぶどよもぎの露ぁ付え で、鬼婆んば見る見るうづん腐さて、そんまなぐなてしまたけどは。
 んだはげぁぇ、五月節句 (へっく) にゃ魔除げだて軒 (ぬぎ) さしょうぶどよもぎ差すよんなたな だど。とんぴんからんこぁねぁっけどは。
(話者 舟生カネヨ)
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