3 鬼婆むかし

 むがしあったけど。むがしなー、或る所 (ど) さ、お寺あったぁだど。ほうしてな、其処 (ほご) のお寺の和尚さがなー、お盆の十三日も間近になたんだし、盆花とてあげねぁん ねぁどもて、小僧 (こんぞ) どさ、
「小僧、小僧、十三日もすぐだはげぁぇ、仏さまさ盆花あげねぁんねぁ。山さ行 てとてこえちゃ」
 て、小僧どさ、採りん行がへだど。
 ほんで、小僧ぁ、山さ盆花採りん出がげだど。ほうして山で、もう少すもう少 すていうなで、だんだん山奥さ入 (へあ) て行て、一生懸命なて採てるうづん、日ぁ暮っ でしまたけどは。困てしまて、あっつこっつ見だども、家 (え) ぁ一軒見ねぁおんだは げぁぇ、もう少す行たら、家ぁあるおんだんねぁべが、ど思 (も) て、ずうっと行たば、 ぽつんと灯 (あがし) ぁ一 (しとっ) つ見 (め) っけど。ほんで小僧ぁ、どっかどして、其処 (ほご) の家 (え) さ行て、
「お晩です。お晩です」
 て言 (ゆ) たば、婆さま出はてきたけど。小僧ぁ、
「道に迷てしまて、暗ぐならっだはげぁぇ、なんとが今夜 (こにや) 一晩泊めでもらわんねぁ べが」
 て頼だば、婆さま、
「ああ、えーえ、入 (へあ) て来て泊まれ」
 て言 (ゆ) てくえっけど。んでも、婆さまの顔 (つら) なんだかうす気味 (きび) わりなだけどせぁ。 ほんでも仕方ねぁ泊めでもらたど。あど、どごにも家なのねぁんだおん。
 ほうして、夜中んなたば、なんだが、ざあざあていう音ぁすんなで目さめだど。 小僧ぁ、なえだておがすな音ぁするおんだど思 (も) て、そっと戸のすぎまがら見だら 囲炉裏端 (ゆりばだ) で、鬼婆んば包丁磨ぎだけど。小僧ぁ、今度おかねぁぐなて、おかねぁ ぐなて、
「これぁ大変だ。なんずしたらえべ」
 ど思たど。んだて、鬼婆んば、夜中に寝ねぁで包丁なの磨えでるなだおん。ほ んで、なんずしたらえべど思 (も) て、うんと工面したど。
 ほうして、鬼婆んばどさ、
「婆さま婆さま。まずまず便所 (へんつん) さ行 (え) ぎでぁぇぐなたはげぁぇ、便所さ行がへでこ ろ」
 て言 (ゆ) たど。ほしたば鬼婆んば、
「なんだ小僧、逃 (ね) げんなんねが」
 つけど。ほんで、小僧ぁ、
「逃げんななのんねぁ。こんた暗闇 (くらすま) ん何処 (ど) さも行がんねぁべな。便所さ行ぐばん で、逃げんななのんねぁ」
 て言 (ゆ) たば、鬼婆んば、
「んだが。んだばえ。んでもこれつけで行げ」
 て、小僧ぁ腰さ、縄ゆつけだけど。ほうして、便所 (へんつん) さ行がへだけど。
 ほうして、便所さ行て、すばらぐすっど、鬼婆んば、
「小僧小僧、まだ、出ねが」
 つけど。ほんで、小僧ぁ、
「まだ、出あへん」て言 (ゆ) たど。
 ほうして、和尚さんがら、来っ時 (づぎ) 、お札三枚 (めあえ) もらて、災難さあた時ぁ、一枚ず つ撒えで、お札さ頼めて言 (ゆ) わっだな思い出したけど。ほんで、一枚しとごろがら 出して、便所さ張て、
「鬼婆んば、まだがて言 (ゆ) たら、まだだて言てころ」
 て頼 (た) ので、自分腰さゆっつけらっだ縄、便所の柱 (はすら) さ結 (つねあ) で、どんど、逃げで行 たど。鬼婆んば、まだだが、てなんべ言 (ゆ) たて、まだだ、まだだていうおんだはげぁぇ、 こんだ鬼婆んば、かんしゃぐ起して、
「小僧小僧。まだ出ねなて、ほう長んがく出ねぁずぁねぁーべな」
 ていうど、ほの縄、ぐえら引張たべ。ほうすっと便所の細え柱さ結 (つねあ) んだおんだ おん、便所ぁ、がりがりど壌 (ぼこ) っでしまたけどは。
 ほうすっど、鬼婆んば、
「小僧逃げだなっ」
 ていうど、小僧ぁどさ追 (ぼ) かけできたけど。小僧ぁ、おかねぁくて、おっかねぁ くて、命がげんなて逃げだど。ほんでも、鬼婆んばだおんだおん。早 (は) えくて早え くて、
「こらー、小僧待でー、小僧待でー」
 て追 (ぼ) かげで来て、そんま追 (か) つがれそんなたけどは。
ほんで、小僧ぁ、和尚さんがらもらたお札、まだ、懐 (しとごろ) がら出して、
「俺ぁうすろさ、大っき川出はれっ」
 ていうど、ほのお札撒えだど。ほしたば、小僧ぁうすろさ、大っき川出はたけ ど。ほんで、鬼婆んば、越えらんねぁで、うろうろしったけど。ほのうづん、鬼 婆んば、「面倒 (めんど) くせぁぇっ」ていうど、ほの川の水、がぶがぶど飲み始じめだけど。 ほうして、一寸 (しっとあえ) のこめぁぇん、ほの水飲み干してしまたけどは。
 ほうすっど鬼婆んば、まだ、
「小僧待でー、小僧待でー」
 て追かげできたけどやー。ほうしているうづん、小僧ぁ、又鬼婆んばに追 (か) っが れそんなたけど。ほんで、小僧ぁ、しとごろがら三枚目のお札出して、
「俺ぁ後さ、しょうぶと蓬の山出はれっ」
 て、ほのお札うすろさ投げだど。ほうしたば、小僧ぁうすろさ、しょうぶど蓬 の大っき山出はたけど。
 ほのうづ小僧ぁ、どんどど逃げで、お寺さ行てしまたけどは。ほうして、和尚 さんどさ、
「和尚さん和尚さん。まづ早ぐかぐしてころ」
 て、ふうふうて言 (ゆ) いながら言 (ゆ) たべ。ほしたば、和尚さん、まだ、
「ほんげぁぇふうふて走してきて、いってぁぇ、なになおんだや」
 ていうおんだはげぁぇ、小僧ぁ、
「おっかねぁどさ泊りあででよ。山で暗ぐならっだおんだはげぁぇ、泊めでもら たば、鬼婆んば家だけなよ。ほんで、鬼婆んばに追 (ぼ) わっでしまて、今ほごまで追 かげできたあだ。まず早ぐかぐしてころは」
 ていうおんだはげぁぇ、和尚さんが、
「んでぁ戸棚さかぐっでろ」
 て、戸棚さかぐしたど。
 ほうしているうづん、鬼婆んば、なんづんしてしょうぶどよもぎの山越えで来 たおんだが、お寺さ来たけどは。ほうして、
「和尚、和尚。小僧ぁ来ねぁけが」
 て聞ぐずおん。ほんで、和尚さん知らねぁ振りして、
「ほういう者あ来ねぁがったな」
 てゆたば、鬼婆んば、
「来ねぁじゅあねぁ、必ず入 (へあ) たなだ」
 ていうずおん。ほんで、和尚さんが、
「ほんでぁ、まづ、俺ど化げくらべすんべ」
 て言 (ゆ) たば、鬼婆んば、
「ほう。んだが、ほれもえがべ」
 ていうけど。ほんで、二人 (したり) ぁ化げくらべすっごどんしたど。
 ほんで和尚さん、
「んでぁ、なんぼ上手ん化げれっが、まづ、お前 (めあえ) がら化げでみろ」
 て言 (ゆ) たば、鬼婆んば、
「んだが、んでぁ、何に化げる」つけど。ほんで、和尚さん、
「んだなー。んでぁ、豆こんなてみろ」
 て言 (ゆ) たど。ほうしたば、鬼婆んば、暫 (すばら) ぐ口ん中で、何がぶづぶづ言 (ゆ) てだどおも たら、ころころっと、豆こん化げだけど。ほうすっど和尚さん、ほの豆こ、ぺろっ と飲 (の) でやてしまたけどは。とんぴんからんこぁねぁっけどは。
(話者 高橋キク)
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