31 屁っぺり爺

  むがしあったけど。むがしあるどさなぁ、爺さまいだけど。ほの爺さまじゅぁ、
うんと屁たれの上手(じょん)だ爺さまでぁったど。
「爺さま爺さまぁ、お前、屁たれうんと上手(じょん)だつけぁ、一づたっでめへろや」
 なていうど、何時でも、
「でやでや。んでぁ一づたっでみっが」
 ていうど。
「あやちゅうちゅう、にしぎさらさら、ごようのまだがら、ちちんぱらりん、ぷーぷぷん、ぶー」ど、たってめへっがったど。
 お城の殿さま、ほの話聞で、「ほんげぁぇ珍らし屁たえんなが、ほの爺さまどご連(つ)でこえ」て、家来どさ言(ゆ)いづげだど。家来ぁ爺さまどさ行(え)て、
「爺さま、爺さま。殿さまぁ、来て屁たっでめへろど」
 て、爺さまどご、お城さ連(つ)で行(え)たど。ほしたば殿さまぁ、
「屁っぺり爺というのはお前が。よぐ来たな」ていうけど。ほんで爺さまぁ、
「んです。私(わだす)です」て言たば、殿さまぁ、
「お前は珍らしい屁をたれるそうだが、どんな屁たれっが、まず、早速たっでみろ」て、いうおんだはげぁぇ、爺さまぁ、
「んでぁ、早速たっでみあすべ」ていうど、「あやちゅうちゅう、にしぎさらさら、ごようのまだがら、ちちんぱらりん、ぷーぷぷん、ぶー」どたっでめへだど。殿さま喜で、
「これは面白い。あんまり上手だ。もう一(しと)づたっでみろ」
 て賞めらっだおんだはげぁぇ、爺さまぁ、
「んですか。んでぁ、もう一づたっでみあすべ」ていうど、まだ、「あやちゅうちゅう、にしぎさらさら、ごようのまだがら、ちちんぱらりん、ぷーぷぷん、ぶー」どたっだど。ほんで爺さま、殿さまがらすっかり賞めらっで、えっぺごほうび貰らたけどや。
 ほうすっど、ほの話聞で、隣の欲ばり爺んじぁ、「屁なの、おれだて、なんぼでもたえれる。んでぁ、おれも殿さまさ屁たっでめへで、ごほうび貰わねぁんねぁ」ていうど、生栗しこでぁま食て、お城さ行て、
「屁っぺり爺ぁ、屁たっでめへん来ぁした」
 て叫がだど。ほしたば、門番、くぐり開げで、「何用だ」て聞だけど。ほんで、
「屁っぺり爺ぁ、殿さまさ、屁たっでめへん来たぁです」
 て言(ゆ)たど。ほしたば門番が、
「んだが。んでぁ殿さまさ言(ゆ)てくっさげぁぇ、一寸待で」て、殿さまさ聞ぎん行たば、殿さまぁ、「ほっが、んでぁ連(つ)で来(こ)え」ていうはげぁぇ、爺どご連で行たど、ほしたら、
「屁たれ、ほんげぁ上手(じょん)だなが、んでぁたっでみろ」
 つけど。ほんで欲張り爺んじぁ、んでぁこれぁごほうび貰うえど思(も)て、
「んでぁ、早速たっでめへあす」ていうど、
「あやちゅうちゅう、にしぎさらさら、ごようのまだがら、もってまいるは、ちちんぽんぽん」ていうど、「びーびびびー、びー」て、ひどえ音さへでしまたけどは。ほうして糞(もろみ)まで出してしまたおんだはげぁぇは、ほの臭(く)せぁぇごど、臭(く)せぁぇごど、側近所にいらんねぁけどは。
 ほんで殿さま、あんまり臭せぁぇおんだはげぁぇ、鼻つかで、怒(ごしえ)で怒で、
「この糞たれ爺んじぁ、みだぐねぁ、棒ただぎんして、お堀さぶち込(ご)んでしまえ」
て、奥さ引込(ひこ)でしまたけどは。欲ばり爺んじぁ、ごほうびどごんねぁ、棒で百も叩がって、お堀さじゃっぽりぶっ込(こ)まっでしまたけどは。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(集成一八九「屁ひり爺」) 
〈話者 高橋良雄〉
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