27 雀むがし

 むがしあったけど。
 あるどさなぁ、雀ぁいで、藪さ巣作たけど。ほうして、巣さ卵三つ産(な)したけど。ほうしてなぁ、早ぐむえろ、早ぐむえろて、大切(であじ)んして暖めっだけど。ほしたらほごさ猿ぁきて、
「雀々、何しったや」
 て聞ぐけど。ほんで雀ぁ、
「卵暖めっだなだ」て言(ゆ)たど。ほうしたら、
「なんば産(な)しったや」て聞ぐけど。ほんで雀ぁ、「たった三粒(みっつぶ)だ」て教(おへ)だど。ほしたら猿ぁ、ほの卵食いでぁくて食いでぁくてだどや、
「三粒も産したなが。んでぁ一粒食(か)へろや」
 ていうけど。ほうすっど雀ぁ困て、
「たった三粒はんて産(な)さねぁなだおの、惜(いだま)しくて食へらんねぁ」
 て言(ゆ)たど。んでも猿ぁ食いでぁくて、
「んだら、今夜夜(よ)討(いぢ)ぶぢん来て、お前どごも食てしまうぞ、ほんでもえなが」
 て、おどすけどや。雀ぁ恐ねぁぐなてしまて、仕方ねぁ、
「んだら、これ一粒だけだぞ」
 て、大事んしった卵、一粒猿に取らっでしまたけどは。なんぼが惜(いだま)しがったんだがやぁ。ほして猿ぁほの卵、いぎなりすとんと飲(の)でしまたぁだど。雀ぁ恐ねぁくて、恐ねぁくて、巣の中でたぁだふるえっだけどは。
 ほしたら猿ぁ、まだ、手出してよごして、
「あんまり美味(んめあ)え卵だ、一粒ばんでぁ食たけねぁ、も一(しど)つ食へろ」
 ていうなだけどや。雀ぁ、おかねぁがったども、
「あどたった二粒(したつぶ)はんてねぁなだおん、惜(いだま)しくて、とでも呉(く)えらんねぁ」
 て断(こどわ)たど。ほしたら猿ぁ、恐ねぁ顔(つら)して、
「んだが、んだらえっ、んだら今(こ)夜(にや)夜(よ)討(いぢ)ぶぢん来て、お前どごも食てくえる」
 て、おどすなだけどやぁ。雀ぁ、恐ねぁくて恐ねぁくては、たった二粒はんでねぁったども、泣ぎながら、
「あどなんずんしたて呉えらんねぞ。これ一粒だけだぞ」
 て、猿ぁどさ、惜し卵くっでしまたど。ほしたら猿ぁ、ほの卵持(たが)て溝(へぎ)ぽんとまでぁぇで、まだくひょうしん、ほの卵ぺろっと飲でしまたぁだどは。
 ほうして、まだ雀ぁどさ戻て来て、
「雀々。折(へっ)角、今(えま)もらた卵、溝(へぎ)またぐど思(も)て、跳ねだら、卵溝さ落どしてしまて、見ねぁぐしてしまたは。んだはげぁぇ、もう一粒けろや」
 ていうけどやぁ。雀ぁ困てしまて、返事出来(でげ)ねぁくて、泣(ねあえ)っだど。ほしたら猿ぁ、
「んだが、泣で返事さんねぁくれぁぇ惜しなで、くえらんねぁごったら、ほれでもえ。今夜夜討ぶぢんきて、お前どごもぺろっと食ってけっさげぁぇ」
 て、雀ぁどご威(おど)すなだけどやぁ。雀ぁ恐ねぁくて恐ねぁくて、泣ぎながら、ほのたった一粒はんて残ごてねぁ惜し卵、仕方ねぁぐくっでやてしまたけどは。
 雀ぁめんごがていた卵でぁぇったんだおん、ただ泣げで、泣げで、仕方ねぁくて、おえおえて泣(ねあえ)でいだけどは。
 ほうしたら、ほごさ、どしんどしんて、音ぁして、臼ぁ来たけど。ほうして、雀ぁどさ、
「雀々、なして泣(ねあ)っだや」
 て聞ぐけど。ほんで雀ぁ泣ぎながら、
「たった三粒はんて産さねぁ大事だ卵、猿におどさっで、みな取らっでしまて、惜しくて泣っだなだ」
 て教(お)へだど。ほしたら臼ぁ、
「なえだて、あの畜生(ちくしょ)猿ぁ、随分(ぜえぶん)むぞせぁぇごどするおんだ。よしよし。泣ぐな泣ぐな。必ずおれぁ、仇とてくえっさげぁぇ」
 て言(ゆ)てくえっけど。
 ほうしているうづん、ほごさ、ぶーん、ぶーんていう音ぁして、大っきかめ蜂ぁ来て、
「雀々、なして泣ぐや」
 て聞ぐけど。ほんで雀ぁ、
「たった三粒はんてもだねぁ、大事だ卵、猿に取らっでしまて、惜しくて泣っだなだ」
 て言たど。ほしたば、かめ蜂ぁ、
「あの、えぐな畜生ぁな。仇とってくえっさげぁぇ泣ぐな」
 ていうけど。
 ほうしているどごさ、今度ぁ、びたらっ、びたらっていう音ぁして、牛(べご)の糞ぁ来たけど。ほうして、牛の糞ぁ、
「雀々、なして泣っだや」
 て聞ぐけど。ほんで雀ぁ、
「めんごくて、大事んしった、たった三粒の卵、猿におどさっで、食っでしまたはげぁぇ、惜しくて泣っだなだ」
 て教(お)へだど。ほしたら牛の糞も、
「憎え猿だごど。人(しと)の惜(いだま)しおの取りあがて、よしっ泣ぐな、泣ぐな。仇とってくえっさげぁぇ」
 て言(ゆ)てくっだけど。
 ほうしていだば、まだ、がさがさど大っき蟹(がに)ぁ来たけど。ほうして、蟹も、
「雀々、なして泣っだや」
 て聞ぐけど。ほんで雀ぁ、
「たった三粒はんて産さねぁ、大事だ卵、猿にむりむり取らっださげぁぇだ」
 て教へだど。ほれ聞ぐど、蟹も怒で、
「なんだて、あのえぐなし畜生ぁな。えっ。仇とってくえっさげぁぇ泣ぐな」
 て言(ゆ)てくっだけど。
 ほんぎゃぁしてっどごさ、ころころど栗ぁ転(ころ)で来たけどや。ほして栗も、
「雀々、なして泣っだや」
 て聞ぐけど。ほんで雀ぁ、
「三粒はんねぁぇ、大事だ卵、むりむり猿にとらっでしまて、惜しくて泣っだなだ」
 て言たど。ほしたら栗も、
「なえだてむぞせぁぇごどする猿畜生だごど。泣ぐな泣ぐな。仇とてくえっさげぁぇ」ていうけど。
 ほんで、臼どかめ蜂ど牛の糞ど蟹ど栗ど五人集(あづ)ばて、仇討(ぶぢ)の相談したど。ほうして、まづ臼ぁ、猿家の入口(へありぐづ)の屋根の上(ゆえ)さあがるごどんしたど。ほして、牛の糞ぁ入口んどさ、かめ蜂は座敷の敷台(あがりかまち)んどさ、蟹ぁ水屋(みじや)の水桶ん中さ、ほうして、栗ぁ囲炉裏(ゆるり)のほどの中さかぐっでいるごどんしたど。ほうして、猿ぁ家がら出はんな待ぢっだど。ほのうづん、猿ぁ、自分家(おわえ)がら出はて、どさが行たけど。ほうすっど五人ぁ、猿の家さ行(え)て、自分持場さかぐっでだど。
 ほのうづん、猿ぁ自分家さ、
「ああ寒み寒み」
 て来たけど。ほうして、家(え)ん中さ入(へあ)て行て、火箸で囲炉裏のほど、じょぎじょぎど突づで、手出してあだたけど。
 ほうすっど、ぼどん中にいだ栗ぁ、ばえんと弾(はつ)けだずおん。ほうすっど、ほどのおぎがら熱(あ)っ灰(あぐ)がらべろっと、猿ぁ顔(つら)なの腹なのさかがたべ、猿ぁ熱つがて、
「あつ、あつ」てほろたども、あつこつ火傷(やけど)しては、あつおんだはげぁぇ、水屋さ走して行て、水桶ん中さ、ざんぶり入(へあ)たど。
 ほうすっどほれ、蟹ぁかぐっでだべ、こんだ蟹に手がら足がら、けっつまで、じょぎじょぎと挟まっでは、猿ぁ、「痛(い)でぁ痛でぁ」ていうど、水桶がらがえら出てきて、外(おもで)の方さ走て行たど。
 ほうして、座敷の敷台んどごまで走して来たべ、今度ほごさかぐっでだかめ蜂ぁ、ぶーんて出はてくっど、猿ぁ顔がら頭がら、体中じくじくと刺したど。猿ぁ痛でぁくて痛でぁくて、「ああ、ああ」て泣ぎながら、外さ逃(ね)げだど。
 ほうすっど今度ぁ、入口(へありぐづ)んどさ待ぢっだ牛の糞さ、ずえらふんずらべで転(ころ)だどさ今度ぁ、屋根の上(ゆえ)さいだ臼ぁ、
「猿畜生、雀の仇だぞ」
 ていうど、臼ぁ屋根の上(ゆえ)がら、どさっと落ぢできて、猿ぁどご、びっちょり潰してしまたけど。
 ほんで、ろぐでなし猿ぁ、死でしまて仇とらっだけどは。んだはげぁぇ、弱え者(おの)いじめおんでねぁど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(集成二九「雀の仇討」)
〈話者 高橋良雄〉
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