25 猿むがし 

 あるどさなぁ、娘三人持て、三百刈りの田作(つ)くて暮しった爺さまど婆さまいだけど。
 ある時(づぎ)なぁ、何日(えつか)も雨ぁ降らねぁおんださげぁぇ、三百刈りの田ぁべろっと乾へできたけどは。ほんで爺さまぁ、なんたごどしたらえがべど思(も)て、夜んまも寝らんねぁくれぁ心配でぁったど。ほうして、なんぼ考(かんげ)ぁぇだてええ工面うがばねぁくて、三百刈りの田、みな割っでしまうはて困て、田見っだけどは。
 ほうして、田見っだば、ほごさ猿ぁ出はてきて、
「爺さま、爺さま。何ほんげぁぇ毎日心配してんなだや」
 てきぐけど。ほんで爺さまぁ、
「何日(えつか)も雨ぁ降らねぁおんだはげぁぇ、三百刈りの田ぁ、からからと乾(かわえ)で、割っできたじゅは」
 て言(ゆ)たば、猿ぁ、
「家(え)にぁ娘ぁいだんねぁがや」
 ていうけど。ほんで爺さまぁ、
「ああ、えだえだ」て言たば、猿ぁ、
「ほの娘、おれぁどさ呉(く)っでころ。ほへば田さえっぺぁ水かげでくぇっさげぁぇ」
つけど。ほうすっど爺さま喜(よろご)で、
「んでぁ、呉えっさげぁぇ、どうが水かげでころ」
 て頼だど。ほうして次の日、爺さまぁ、まだ田さ行たば、田さえっぺぁ水ぁかがていだけど。ほごさ猿ぁまだ出はて来て、
「爺さま、爺さま。どの娘くえんなや」
 て聞ぐけど。ほんで爺さまぁ、
「まだ言(ゆ)てねども、三人のうづ、どれがかれがくえる」て言(ゆ)たど。
 次の日の朝ま、爺さまぁ、三人の娘のうづ誰か行ぐて言(ゆ)てくえんだがど思(も)て心配で起ぎらんねけどは。ほごさ大っきな来て、
「爺さん、爺さん。飯(まま)食(け)は」
 ていうけど。ほうしたば爺さまぁ、「んでぁ、おれぁいうごどきぐがや」て言(ゆ)たば、「きぐはげぁぇ、早く起ぎで飯食(け)は」ていうけど。ほんで爺さまぁ、
「んでぁ、猿の嫁んなてくえっがや」て言(ゆ)たば、
「猿の嫁なのならねぁ。誰ぁ猿の嫁なのなるんだて」
 て、怒(ごしぇぁ)えで、行てしまたけどは。
 ほんで、爺さま困てだば、ほごさ二番目んなきて、
「爺さん、爺さん。飯食(け)は」ていうけど。ほんで爺さまぁ、「んでぁ、おれぁいうごどきぐがや」て聞いだば、「きぐはげぁぇ、飯食は」ていうけど。ほんで爺さまぁ、
「んでぁ、猿の嫁んなてくえっがや」て言(ゆ)たば、
「ないだどて猿の嫁んなのなるんだて。誰ぁ猿の嫁んなのならねぁ」
 て、しこでぁぇま怒でいうけど。ほんで爺さま大変困ては、猿どさは、くえるて言(ゆ)てしまたんだし、困てしまて寝っだけどは。
 ほごさ今度(こだ)ぁ末娘ぁきて、「爺さん、起ぎて飯食は」ていうけど。ほんで、
「んでぁ、おれぁいうごどきぐがや」て言(ゆ)たば、
「きぐきぐ、なんでもきぐはげぁぇ、まづ、起ぎで飯食(け)は」つけど。ほんで爺さまぁ、「ほんでぁ、猿の嫁んなっがや」て言(ゆ)たば、末娘ぁ、
「なるなる。猿の嫁んなっさげぁぇ、起ぎて飯食は」ていうけど。ほんで爺さま喜(よろご)で、起ぎで来て、飯食たけど。
 ほうしているうづん、猿ぁ来て、
「爺さん、爺さん。おれぁどさ呉える嫁こぁどれだや」
 て聞ぐけど。ほんで爺さま三番目んなば、「これだ、これだ」て言(ゆ)たば、猿ぁ喜で、「はぁ、これが、これだば言(ゆ)い分がねぇ」て、猿ぁ喜では、早速家(え)さ連(つ)で行(え)たけどは。
 ほのうづ三ツ目(め)んなて、猿ぁ、
「嫁(あね)こ、嫁こ、爺さんどさ、何持てえたらえがべ」
 て聞ぐけど。ほんで嫁こぁ、
「んだなあ。爺さん餅一番好ぎだはげぁぇ、餅搗で持てえぐべ」
 ていうけど。ほんで二人(したり)して餅搗(つ)で持て行ぐごどんしたど。
 ほうして、餅ぁ搗げっど、猿ぁ、
「何さ入(へ)で持てえたらえがべ。重箱(じゅつこ)さでも入(へ)で持てえぐが」
 て聞ぐけど。ほうすっど嫁(あね)こぁ、
「ああ、おれぁ家の爺さん、重箱さなの入(へ)っど重箱くせぁぇくて食(か)んねぁ、ていうはげぁぇ、臼まんま持てえてころは」
 て、猿ぁどさ、臼まま背負わへで行(え)たけど。
 ほうして、ずっと行(え)たば、川端の崖の上(ゆえ)さ、きれだ桜咲(せあ)っだけど。嫁こぁほれ見で、
「あの桜花あんまりきれだ、一(しと)枝とて爺さんどさ見へっでぁおんだなぁ」
 て言たば、猿ぁ、 「んでぁ、おれぁ取てくる。臼、こさ下ろして取てくんべ」
 て、臼おろすどごだけど。ほしたば嫁こぁ、
「ああ、そさおろすど、爺さん土くせぁぇくて食(か)んねぁていうはげぁぇ、背負たまま取てきてくんねぁが」
 ていうおんだはげぁぇ、猿ぁ臼背負たまま桜ぬ木さ上がて行(え)たど。ほうして、
「これぁえがぁ」て叫がぶけど。ほんで嫁こぁ、「もう少す梢(てんぺ)んなよ」て言(ゆ)たど。ほうしたば猿ぁ、まだ上(あが)てえて、「んでぁ、これがぁ」て叫がぶけど。ほんで嫁こぁ、「もう少す上(ゆえ)んなよ」ていうおんださげぁぇ、猿ぁまだ上がてえて、「んでぁ、これがぁ」て叫がぶけど。嫁こぁ、ほの上(ゆえ)んな、一番ええなぁ」て、猿ぁどご、一番梢(てんぺ)まで上がらへで、梢んな取らへるかんじょしたべ。ほうすっど細こえおんだはげぁぇ、取るかんじょしたば、枝がりがりっど折っでしまて、落ちできては、沢さ流っでえたけどは。
 ほうして、流さっで行ぐ時(づぎ)、猿ぁ歌詠んだけど。
     猿沢に流るる命は惜しくあらねども
       あどでお嫁はお泣ぎしゃるらん
 ていう歌だけど。
 ほの娘ぁ家(え)さ帰(けあ)えて幸福(しっしゃわへ)んくらしたけど。とんぴん からんこぁ ねっけどは。
(集成一〇三「猿聟入」)
〈話者 高橋キク〉
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