17 大森のかしこ 

 むがしあったけど。
 むがしなぁ、旧村の大森に、かしこていうとでも利口(りご)だ狐ぁいでぁぇったど。
 ほの狐に、村の人(し)達(たづ)ぁ時々騙さっでいっがったど。祝事(ゆわえ)やなにがでごっつぉなて、お包(づづ)みもらて、夜んま酔っぱらてくっど、大森のかしこぁ、ええ娘(あね)こんなて出はてきて、騙してお包みなとりあげだり、騙さっで、杉林さしと晩寝へらっだり、んだがと思うど、湯さ入(へあ)れて言(ゆ)わっで、裸んさっで、田の水口(みなぐづ)さ入(へ)らっだり、さまざまでぁぇったど。
 ほんで、子供(わらし)達ぁ泣(ねあ)だり、夜んま、何時までも寝ねぁがったりすっど、「この野郎ぁ、何時まで泣(ねあ)でんなだ。ほんげぁ泣でっど、ほれ、大森のかしこぁ来るんだはげぁぇな」どが、「ほら、早く寝ろは、寝ねぁど大森のかしこぁ来んぞ」なて、子供達おどすど、恐(おかね)がっていうごど効(き)ぐおんでぁぇったど。
 ほのころ、旧村に太郎吉ていう百姓ぁいでぁぇったど。太郎吉ずぁ、小百姓で炭焼ぇぁだりしている人で、とでも利口だ人でぁぇったど。
 ある時(づぎ)、太郎吉ぁ、鏡沢(ざ)の親戚で、結婚式(むがさり)あったおんだはげぁぇ、晩方しめん招(よば)っで行(え)たど。ほうして、酒好ぎだおんだし、ほれさ結婚式だべ、んだおんださげぁぇ、ほれぁ飲め、ほれぁ飲めて飲まへらっで、でぐんでぐん酔っぱらて、お包みのごっつぉ持だへらっで、提灯下げで、よろらよろらど帰ぇてきたど。
 ほうして、大森んどごまで来たば、おわぁ家(え)のかがぁ迎(む)げんきたけど。ほして、
「お父さん(つあつあ)、お父さん、なんぼが酔て来んべど思(も)て迎げん来たは」
 つけど。太郎吉ぁ、ほっとして、
「んだが、んだが」て言(ゆ)たば、かがぁ、
「お包みなの此方(こっちゃ)よごへは。おれぁ持てえて呉(く)えっさげぁぇは」
 ていうおんだはげぁぇ、太郎吉ぁ背負てだお包み、かがどさ渡して、鼻唄(うだ)がけで来たど。ほうして、一寸(しっとえあ)来たば、自分(おわ)の家(え)だけどは。ほうして、家(え)さ入(へあ)ったばかがぁ、
「つぁつぁ、湯さ入(へあ)て、酔いさますんだ」
 つけど。ほんで、太郎吉ぁ、裸んなて、湯さ入(へあ)たど。ええ案配(あんべあえ)だ湯だおんだはげぁぇ、太郎吉ぁ、ええ気持んなて、湯さ入(へあ)たまま寝でしまたけどは。明(あげ)がだんなて、なんだが少す寒(さみ)ど思(も)たば、くしゃみして目さましたけど。ほうして、目さめでみだば、田のかしらの淀みこんどさ入(へあて)ていだぁだけど。ほうして、着物(きおの)ぁ田の畔んどさあんども、お包みなのすてっとなぐなていだぁだけどは。
 太郎吉ぁ「あっ、おれぁ夕(ゆべな)、大森のかしこに騙さっだぁだな。」て、感づえだど。ほんで太郎吉ぁ、くやしくてくやしくて、「ようし、畜生ぁ、おれぁどご騙しあがて、みでろ、必ず仇とてくえっさげぁぇ」て、家(え)さ行(え)たけど。
 ほうしてなぁ、何日(えっか)がたてがら、少す小雨この降る暗ぁ晩、太郎吉ぁ、かがどさ油揚げ二十枚ばりあげらへで、あげだでの匂えのぷんぷんすんな、栃の葉さ包(つづ)で、ほれ下げで、鏡沢の方さ、酔っぱらたふりして、笠かぷて、み(み)の(ん)着て、ふらふら、ふららど、あっちゃ据(ねま)り、こっちゃ据りして行(え)たど。ほうして、大森少す過ぎだあだりまで行(え)たば、めんごげだ娘(あね)こぁ出はて来たけど。太郎吉ぁ、「来たな」と思たども、騙さっだふりしてんべど思(も)て、知らねぁふりして、よろらぁよろらぁど、油揚げ下げで行たど。ほしたら、ほの娘こぁ側さ来て、
「太郎吉つぁん、太郎吉つぁん。おれぁ家(え)のつぁつぁ、炭焼ぎの勘定祝(ゆわえ)だはげぁぇ、つでこえ、ていうはげぁぇ迎げぁん来ぁした」
 て、提灯めへで、
「お前家(めあええ)まで行(え)がねぁんねぁど思たども、まず、ええどごで行ぎ会(あ)てえがった。まず、おれぁ家さ行てころ」
 て、太郎吉あ手ひっぱっけど。太郎吉ぁ、これぁ丁度ええ案配(あんべあえ)だどもて、娘(あね)こぁ手しめでついて(つで)行たど。
 ほうしたば、やっぱり大森さ上がて行ぐずおん。んだはげぁぇ太郎吉ぁ、これぁやっぱり大森のかしこに相違ねぁど思(も)たはげぁぇ、娘こぁ手離さねぁで、油揚げもとらんねぁよんしめで行たど。
 ほうしたば、立派だ家さ来たけど。ほうして、まず入(へあ)れどていうおんだはげぁぇ、娘こぁ手堅(ぎっつ)く握(にぎ)て、酔っぱらたふりして、わらじなの脱がねぁで上がたど。ほしたら、囲炉裏(ゆるり)んどさ、五、六人いで、酒飲でだけど。太郎吉ぁ入(へあ)てえだば、
「やあ、太郎吉っつぁんが、えぐ来てくっだ、まず、飲め」
 どて、盃突出(つだ)したけど。んでも太郎吉ぁ、
「まず待で、おれぁ揚げだでの油揚げ持て来たはげぁぇ、まず、これ味みでころ」
 て、油揚げ出したずおん。ほうすっど狐だべ。みんな、
「これぁんめぁ、これぁんめぁ」
 て、太郎吉つぁ、酒注ぐな忘っで、夢中んなて食てだけど。ほの油揚げつぁ、酒粕さ焼酎でっつら入(へ)っで混(まじえ)たな中さ入っだ油揚げでぁぇっだど。んだおんだはげぁぇ、忽ぢ酔っぱらてしまて、本性出して、狐の姿まる出しんして、囲炉裏端さごろごろど寝でしまたけどは。
 ほれみっど、娘こぁ、逃(ね)げんべど思(も)たども、太郎吉ぁぎっつぐしめっだおんだおん、なんずして逃げらえるおんでねぁんだはげぁぇ。太郎吉ぁ、しめっだ狐の手、えっくん見だら、尾(おっぽ)だけど。大森のかしこぁ、尾しめらっで、なんずしても逃げらんねぁべ。んだおんだはげぁぇ、どうが許してころどて、涙ぽろぽろどこぼして泣ぐけど。太郎吉ぁ、むぞせぁぇぐなて、
「お前(めあ)、今(えま)まで、何人も人(しと)騙して、悪(わり)ごどしてきたはげぁぇ、本当だばみなぶっ殺してくえんなだ。んでも、生ぎ物(おん)だおん、むぞせぁぇどごもある。んだはげぁぇ、今日ぁ許してやる。ほれかわり、これがら、人騙したり、鶏とたり、悪りごどぁこれがらしねぁていうごどだ。もし、ほういう悪りごど一匹でもしたら、村中の人達集べで、お前だ巣掘っくりげぁぇして、子っこがらみ、皆殺しんしてしまう。ええが、みんなさえぐ聞がへでおげ」
 て言(ゆ)たら、大森のかしこぁ、
「今度(こんだ)から決して悪りごどぁしぁへんさげぁ、どうが許してころは」
 て、皆さも、えぐ言(ゆ)て、さへねはげぁぇ、て手つであやまたど。太郎吉も、「んでぁ今度からすんなよ」て、許してやたけど。
 ほうして、ほれがらずおのぁ、大森のあだり、夜中魚や油揚げ持て歩(あり)だて、騙さえる人(しと)ぁいなぐなたけどは。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(集成二九七「坊様と狐」)話者 高橋良雄 
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