15 狐むがし 

 むがしあったけど。
 でぁぇぶ昔の話だども、鏡沢(ざ)の荒沢(あらさ)に、佐平ていう狐ぁいで、始終(じょんであえ)、人(しと)化がすっがったど。荒沢にぁ岩魚(ゆわな)いるおんだはげぁぇ、人(しと)ぁえぐ釣りん行(え)ぐがったど。佐平狐ぁ、人ぁ、岩魚釣んな見でで、おれも岩魚釣て食いでぁぇおんだど思(も)ていでったど。
 ほうして、なんずんしたら雑魚釣りあどから釣り竿とるえべど思(も)て、大変(へえほであえ)かんげぁぇで、熊んなて、がさがさと出はて来て、どでさへてみんべどなたど。
 ほうして、待ぢったば雑魚釣りぁ来たけど。ほうして、ほの人ぁ、釣り始づめっどそんま、佐平ぁ、熊んなて、薮やらがさがさめがして出はて行(え)たど。ほうすっど、雑魚釣りぁおかねぁがて、どでして、釣り竿なのぶっとばして逃(ね)げで行(え)てしまたけどは。佐平ぁ、ほの釣り竿たがて、雑魚釣りの真似しったけど。ほれがらずおのぁ、佐平ぁ、雑魚釣りぁ来っど、熊んなて、人(しと)んどごおどしてぁ、釣り竿とんなでぁぇったど。
 ほれがら、ほの頃、小荒沢(こあらさ)にぁ、おしんこ、ていう狐ぁいでぁぇったど。これぁまだ、何時(いづ)でも、子供(わらすこ)んなて出はて来て、通る人んどから、
「腹へたはげぁぇ、何がけろ」
 て食うおの貰らてる狐でぁぇったど。
 ほれがら、やっぱりほの頃、田代の小田代に、おもよ、ていう狐ぁいで、葬式だどが、法事(ず)ん時(づぎ)ぁ、和尚さん呼ばって来んべ、ほうすっど途中で和尚さんどご騙して、袈裟衣みなとりあげで、和尚さんなて行て、ごっつぉ食てくんなでぁぇったど。
 ほれがら、ほの当時(とうづ)、旧村の上(ゆ)の(ね)山(やま)に、びっこ狐ぁいで、木の葉でも、石ころでも拾ろてきて、ほれ銭(じぇね)んして、店(めへ)さ行(え)てぁ、油揚だどが、魚なの買て来んなでぁぇったど。
 ほれがら、赤沢(ざ)の、お定ていう狐ぁいで、六(ろぐ)左(ざ)衛門(えむ)んどごのお墓んどさ出はてきて、晩方しめぁぇだどが、夜んま、人ぁ通っど、ええ姉こんなて出はてきて、人騙して、酒飲めどて、泥水飲まへだり、魚だどて、ほのあだりの胡瓜かへだり、湯さ入(へあ)れどて、水たまりこさ入(へあ)らへだりして、ほの人ぁ持てきた食いおのとてしまうなだけど。
 ほうしてなぁ、お定ぁ、矢島の殿様、お江戸さ行(え)ぐ時(づぎ)、何時(いっつ)も落合(おじゃ)滝(だぎ)の旅篭さ泊んな見でっがったど。旅篭でぁ、ほの殿様くっど、えっぺぁごっつぉすんなでぁぇったど。ほんで、お定狐ぁ、何時(いっつ)も、おらもあんげぁぇごっつぉ食いでぁぇおんだなぁ、ど思(も)て見でっがったど。
 ある時、お定ぁ、小田代のおもよ狐ど行(い)ぎ会(あ)たけど。ほしたば、おもよぁ、
「お定さんや、何がんめぁぇごどあねぁおんだがや。おれも和尚さんに化げんな、村の人に覚(おべ)らっでは、近頃ぁさっぱりんめぇおの食(か)んねぁぐなてしまたは」
 ていうけど。ほうすっど、お定狐ぁ、
「あるある。一人ばりでぁ駄目だども、十人ぐれぁぇ居っど面(おも)白(へ)ごどぁでげんどもなあ」  つけど。おもよぁ、
「荒沢にぁ、佐平ぁ居(い)んべし、小荒沢にぁ、おしんこぁ居んべし、上の山(ゆねやま)にぁびっこ狐ぁ居んべし、ほれぐれぁぇだば直ぐ集(あづ)ばんべや」
 ていうごどんなたど。
 荒沢の佐平狐ど、小荒沢のおしんこ狐、上の山のびっこ狐ぁどさ、呼出し状かげだど。ほうすっど、ほれさおもよ狐に、お定狐ぁ入(へあ)て、五匹ぁ集(あづ)ばたずおん。ほんで集ばたどごでお定狐ぁ、
「実(づづ)ぁなぁ、落合(おじゃ)滝の旅篭さ、矢島の殿様泊っど、旅篭でぁ、何時でも大(た)いしたごっつぉ出すはげぁぇ、みんなして、矢島の殿様ど家来んなて、ごっつぉ食いん行(え)たら面(おも)白(へ)べど思うなよ。なんたおんだべ」
 て話したど。ほうしたば、みんな、
「ほれぁえ、ほれぁえ」
 ていうごどで、佐平ぁ殿様んなて、あどの人(しと)ぁ家来んなて、足(た)んねぁどごぁ、かがどが子供(わらすこ)達(だ)どご連(つ)でえぐべ、て相談ぁ決(き)またけど。ほしたば、佐平ぁ、びっこ狐ぁどご、ずろっと見で、
「矢島の家来にびっこだな居だがや」
 て聞ぐけど。ほんでお定ぁ、
「びっこだななの居ねぁな」
 て言(ゆ)たば、佐平ぁ、
「んでぁ、上の山のびっこどごなの連(つ)で行(え)がんねぁべや」
 て言(ゆ)たど。ほしたば、おしんこ狐も、
「びっこどご連(つ)でえて、分(わか)らえっど、なんにもならねぁべや」
 つけど。ほんで、みんな、この度(だび)だげは上の山のびっこどごばぬがすべ、どなたど。
 さぁ。ほうすっど、今度ぁ、びっこ狐ぁ面(おも)白(へ)ぐねぁずおん。ほんで、びっこ狐ぁ、ぷんぷんて怒(ごしえ)で、びっこひぎひぎ上の山さ行てしまたけどは。
 ほうして、次の日、朴(ほ)木(ぎ)沢山(ざやま)の旧道さ、赤沢(あかざ)のお定、荒沢の佐平、小荒沢のおしんこ、小田代のおもよ、ほうして、あどぁ足(た)んねどごぁ、かがなの子供(わらす)達(たづ)なの十二、三匹ばり集ばたけど。ほうして、みんな侍(さむれあ)んなて、萱刀んして、朴(ほ)の葉頭さのへだば、立派だ陣笠んなたじゅおん。ほうして、供そろえで、佐平ぁすっかり殿様んなて、すかすかど来たじゅおん。
 上の山(ゆねやま)のびっこ狐ぁ、おわばり仲間(ば)がらはづさっだおんだはげぁぇ、面(おも)白(へ)ぐねぁくて、面白ぐねぁくて、野郎(やろ)達(だ)どさなんとがしとあわふがへねぁんねぁ、ど思(も)ていだおんだはげぁぇ、次の朝ま、こっ早(ぱや)ぐ、落合(おじゃ)滝の旅篭さ行(え)て、旅篭の旦那どさ、
「今日、狐達(だ)ぁ十匹ばり、矢島の殿様ど家来ん化げで、ごっつぉ食(く)でぁくて、此所(こご)さ来っさげぁぇ、騙さえんなよ」
 て教へだど。
 さあ、今度ぁ、旅篭の旦那ぁ大変だど思(も)て、村の人(しと)集(あづ)べで、なんたごどしたらえがべて相談したど。ほしたば、
「んでぁ、まづ、村にいるだげの犬集べで、ほれかぐしておえで、狐だ室さ入(へあ)たら、戸障子びっちり閉(くえ)ぢで、出はらんねぁぐしておえで、なんば燻(えぶ)すかげで、騒ぎ出したら、犬入てやて噛まへんべ」
 て言(ゆ)たど。旅篭の旦那も、
「ほれぁえ。んでぁ、狐だ来たら、みんなおれぁえのあだり、ぐるっと取巻(とりめあ)で、家(え)ん中がら逃(ね)げで来たら、棒だりなんだりで、ただぎ殺(ごろ)してしまえ」
 て、相談でげで、犬集べで待づっだど。
 狐だほんたごど知らねぁべ、今日ぁ、落合滝の旅篭で、ごっつぉ食うえずおんで、皆喜(よろご)で、朴(ほ)木沢(きざ)山がら来たずおん。
 ほうして、旅篭さ着だば、旅篭の旦那、愛相(えあそ)えぐ、皆どご室さ通したけど。ほうして、「前金もらいあす」て言(ゆ)たば、お定狐ぁ、「んだが」て、小判一枚出したけど。旦那ぁ、ほれもらうど、水屋(みじや)のかまどの火さくべてみだど。ほしたば燻(えぷ)てきて、木の葉んなたけど。旦那ぁ、ほれ見で、これぁたしかに狐だてわがたけど。
 狐だ、ごっつぉ、今(えま)出はてくっが、今出はてくっがど思(も)て、待づっだども、ほのごっつぉずぁ、ながなが出はてこねぁずおん。ほんで、家来んなたな、
「まづ、酒(さげ)ど肴出してくれ」
 て言(ゆ)たば、旅篭の旦那ぁ、
「はえはえ。今出しあすさげぁぇ、も少(すこ)す待づで下せぁぇ」
 て言(ゆ)ておえで、村の人達さなんば持てこらへで、丼さ燠(おぎ)入(へ)っで、ほの上(ゆえ)さなんばでっつら置えで、なんば燻(えぶ)す三つも四つも作(こしゃえ)で、狐だいだ室さ入(へ)っでやて、戸ていう戸しめで、つっぱりかてしまたど。
 ほうして、少(すこ)すすっど、狐ぁだ、咳(へげ)するんだが、涙出るんだが、苦(へづねあ)ぐなてきたおんだはげぁぇ、早ぐ戸開げろどて叫がぶけど。旦那知らねふりして、戸の陰(かんげ)で聞っだど。ほしたば、狐だ苦がて、こんだ本性あらわして、きゃんきゃんて鳴ぎ出したけど。
 ほうすっど、旦那ぁ、今だていうど、室さ犬十匹ばり入(へ)でやたずおん。ほうしたば、ほれ、室中わんわん、きゃんきゃんて、おっかねぁおんだけど。ほうして戸さぶつかて、ばつんばつんて、まづまづ大騒ぎだけど。ながにぁ、高窓がらとび出してくんなもいだけど。ほうすっど、村の人達ぁ待づっだべ、棒でありったげただがっで、殺さっでしまうべし、室の中でぁ、犬にかじらっで死ぬべしで、ほのうづん音(おど)ぁしなぐなてしまたけどは。ほんで、戸開げで見だば、狐だみな犬に食っ殺さっで死でだけどは。
 ほんで、村の人(し)達(たづ)ぁ、これぁたいしたおんだ、えぐなし畜生だ、ざんまみろ、今度(こんだ)ぁ騙さえっごどぁねぁは、どて大喜びだけど。ほうして、村中の人達ぁ、狐汁で酒もり始ずめだけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
話者 高橋良雄 
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