14 狐むがし 

 むがしあったけど。
 ずっとむがしなぁ、中田(ながだ)から金山さ越えで行く途中の山さ、とでも利口だ狐ぁいであったど。晩方しめぁなのほご越えで行(え)ぐ人(しと)ぁ、ほの狐に騙され騙されすっがったど。
 ほんで、中田の若衆(わがあえしゅ)で気の利(き)だな三人して、
「あの畜生(ちきしょ)ぁ、何時でも人騙しあがて、だまておがんねぁ、今度(だ)ぁ、おらだ三人して騙して呉(く)えんべや」
 て、相談したけど。
 ほうして、今度ぁ、油揚げなの買たり、酒なの買て、鎌(かんま)がら縄がら持て、山越え、山越え、どっこえどっこえど行(え)たど。ほうして、
「婆んばなやぁ、婆んばなやぁ」
 て叫(さが)で行(え)たど。ほうして、叫がび叫がび行(え)たば、
「あーこわぁぇこわぁぇ、あーこわぁぇこわぁぇ」
 て、婆んば、杖つぱて来たけど。ほうすっど、三人ぁ、
「なえだてなぁ、この山こ年寄(としより)あえぐ越えで来たおんだ。まづ、なんぼがこわぁぇがったべな。今(えま)、据っどご刈払(かっぱら)てきれんして呉(く)えっさげぁぇ、ほごさ少(すこ)す休め」
 て、三人で、ほごんどこ刈払て、奇麗(めんごけ)して、草敷(し)でくっで、そごさ据らへで、
「どうだや、お前達(めあえだ)、おらだも一(しと)休みして、くたびれ治して少(すこ)すやっがや」  て、一人ぁ言(ゆ)たら、
「んだんだ。ほれぁえほれぁえ。一休みして行(え)ぐべ」
 て、酒だし、酒の肴なの、油揚げなの出したど。
 ほうしたばや、婆んば、鼻ひくひくどさへで、ちろっちろっど、こっち見っけど。眼(まなぐ)で合図(えーず)して、これぁ間違(まづげあえ)ねぁぐ狐ぁ化げだなに相違ねぁていうごどんなて、
「婆んば婆んば、お前(めえ)どさ、めへずらがして飲(の)でるよでんまぐねぁ、肴なんにもねぁ、この油揚げでも食いながら、一杯(いっぺえ)やれちゃや」
 て、杯つだしたら、婆んばにこにこて、
「んでぁ、折角(へっかぐ)ほう親切(すんへつ)ん言(ゆ)てくえんなだば、一杯ごっつぉなっが」
 ていうおんだはげぁぇ、一杯つぎ二杯(にへあえ)つぎつぐど、なんぼでも飲で、
「あー、んめぁがったんめぁがった。酔(よ)た酔た」
 て、婆んばな、へーほでぁぇ酔て、ぐでんぐでんなてしまたけどは。
 ほんで、三人ぁ、
「おらも婆んばど飲で面白(おもへ)がった。んでも、まだ、此所(こご)さ少す残(のご)った。こればりあげで行(え)ぐべは」
 て、婆んばどさ、みな飲まへだけど。ほんで、婆んばありったけ酔てしまたけど。ほれで三人ぁ、こんだええぞ、ていうど、
「婆んば婆んば、でぁぇぶおらもええ機嫌なたし、こごにぁ酒もなぐなたはげぁぇ、こからだば中田ちっけぁぇはげぁぇ、おらだ家(え)さ行(え)て、飲みなおすすんべや」
 て言(ゆ)たば、婆んば、
「んだが。ほれもええな。んでぁつでえご」
 つけど。ほんで、三人ぁ、これぁえがったど思(も)て、
「んでぁ行ぐべ。婆んばな立でや」
 て言(ゆ)たば、婆んば、よろよろ立たども、ろぐに歩(あり)げなぐなてしまたけど。三人ぁ喜(よろご)で、
「なんだ婆んば、ほんげぁぇ酔たながは」て言(ゆ)たれば、
「あー、酔た酔た。あーこわぁぇこわぁぇ」つけど。ほんで、
「婆んば歩(あり)げねぁんだはげぁぇ、背負(しよ)て行(え)ぐべは」
 て、持てきた縄で、一人(しとり)ぁ、婆んばどご背負て村さ行(え)たど。狐ぁ酔たおんだはげぁぇ、ないしたて重でぁけど。
 ほうして、村さ着ぐど、
「婆んばな。ほら来たぞ」
 て、家さ婆んばどご下ろして、ほら待(たい)遇(ぐ)すろどて、まだ、酒飲まへで、ほの間(こめん)に狐がりだ、て村の人(しと)みな集(あづ)べで、棒(ぼぎなぎ)もてきて、
「此所(こご)の家の神棚の神さま、二人(したり)んなれ、ていうど二人んなんども、ほれぐれぁだば、婆んばだて出来(げ)んべや」
 て、狐ぁどご馬鹿んして言(ゆ)たど。ほしたは、
「見でろ。ほのくれぁのごどだば雑作(じょうさ)ねぁ」
 て、口(くづ)ごもごもさへんども、酔てしまたおんだはげぁぇ、化げるにも化げんねぁぐなてしまて、けぁぇては、尾(おっぽ)出してよごしたけど。ほうすっど村の人(した)達(づ)ぁ、みんなして、 「この狐ぁ馬鹿で化げんね。この狐ぁ馬鹿で化げんねぁ」
 て、囃し囃し、棒で突づぐやら、叩ぐやらして、馬鹿んしたど。狐ぁ、とうどう正体(しょうたあえ)あらわして、逃(ね)げんべど思(も)たども、酔てしまたおんだし、ほれさ、戸障子ぁみな閉(たで)でしまたべし、ぐるりさ村の人達ぁいで、あっちゃ行(え)げば、あっつで、こっちゃくっど、こっつで叩がっで、走りまわたども弱てしまて、とうどう、村の人達に叩ぎ殺さっでしまたけどは。村の人達ぁ、今度(こんだ)ぁ、狐汁して大さわぎして、さがもりだけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(集成二七八「狐の立聴」型)話者 高橋タケヨ 
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