10 鳥こむがし

 むがしあったけど。
 むがしな、こごだば、塩根川(しよねが)のおぐみでぁぇんた山のながさ、兄弟(きようであ)二人いでぁぇったど。ほうして、二人(したり)ぁ山仕事したり、畑仕事したりしていでぁぇったど。
 六月の朔日ぁ、芋(えも)むぎの朔日ていうべ。んだはげぁぇ、兄ぁ、弟どさ、
「おず、今日ぁ、芋むぎの朔日だはげぁぇ、芋掘(ほ)てきて煮でおげ」
 ていうけど。ほんで弟ぁ、
「んでぁ、兄んつぁ山がら来るまで、煮でおぐはげぁぇな」
 ていうけど。ほうして、兄ぁ山仕事さ行(え)ぐど、弟ぁ芋(えも)掘り行(え)たど。
 弟ぁ芋掘てみだら、今年ぁ育ぢぁえぐねくて、太(ふ)って芋なの一(えっ)本もねなだけど。んだて仕方ね。ほの芋洗らて、すっかりひげ根もむすて、はやして煮だど。ほうして、そんまあんつぁ、昼上がりして来んべど思(も)て、待(ま)じっだど。
 んでも、兄んつぁながなが来ねけど。芋もちょうどええあんべん煮だし、昼まんなたはげぁぇ、こんだ兄んつぁ来んべて待じっだども、来ねけど。ほうして、昼すぎんなたども兄んつぁ来ねし、弟ぁ腹もへてきたおんださげぁぇ、んでぁあんまり来ね、食てまじでっがは、ていうなで、
「兄んつぁ難儀して腹もへてくんなだはげぁぇ、ええどご残しておぐべ」
 て、おわしりの方の細こえどごばり食て、腹くっつぐなたんだし、はどめぁぇんどさ、ごろっと寝っだどは。
 ほうしているうづん、兄ぁ、
「ああ、腹へった」て来たど。ほして、家(え)さ入(へ)て行(え)てみだば、弟ぁはどめぁぇんどさ寝でで、ゆるりさ鍋あ掛がったべ。んだはげぁぇ、腹へたんだし、鍋のふたとて見だど。ほしたば、ええ匂えして、芋ぁえあんべぁぇ煮(ね)っだよだはげぁぇ、一(しとっ)つ取って食ってみだば、とでもんめぁぇけど。ほうして、もと食(く)うべどもて、鍋ん中ええぐ見だば、太っとえ芋なのさっぱりねくて、みな細えなばりだずおん。兄ぁ、今年ぁ芋の出来ぁえぐなくて、どれ掘ても細えなばりだて知らねべ。んだおんださげぁぇ、ええどご、おずばり食て、おれぁ難儀して、おそぐなて、腹へて来んな分がてで、おれぁどさ、こんた細こえどごの、んまぐねどご残しったおんだ。おわ(自分)ばりなんぼがんめどご食たべて、ごしぇでしまたけどは。
 ほうしてこんだ、「あんまり面白ぐね、おずぁ腹さえでみねんね」ていうど、みじゃ(水屋)がら包丁(ほえじょ)もてきて、はどめぁぇさ寝っだ弟の腹さえで見だあだど。ほしたば弟の腹さ入(へ)った芋じょおのお、しりの方のえぐえぐ細こえどごばんで、ええどごなのさっぱり入てねけど。ほして、入ったなじゅあ、えぐえぐんめぁぇぐねどごばんだけどや。
 兄ぁ、ほれ見でびっくりしてしまて、えぐねぁごどしたは、えぐねぁごどしたはて、泣(ねあ)っだけどは。んだべちゃやな、腹さえで殺してしまてがらだば、ただ泣ぐより他ねんだおん。ほんで兄ぁ泣で泣で、しめぁぇにぁ鳥こんなてしまたけどは。ほして、
   ほとととと ほとさげだ
   ほとととと ほとさげだ
 て、一日ん、八千八声鳴ぐなだけど。朝から晩まで、ほれごそ、暗(くれ)ぁうつから、暗ぐなても
   ほとととと ほとさげだ
   ほとととと ほとさげだ
 て鳴ぐけど。あんまり鳴ぐおんだはげぁぇ、口のわぎがら血流してっけどや。とんぴん からんこぁ ねっけどは。
(集成四六「時鳥と兄弟」)
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