9 蛇んでぁぇんなた与蔵

 むがすあったけど。
 むがすな、鮭川の奥ん、まんがりていうどごぁあって、ほごの村に与蔵ていう人(しと)あいでぁぇったど。
 与蔵ぁ、毎日山さ行(え)て炭焼ぎして暮していでぁぇったど。ほの村に作治ていう人(しと)ぁいで、炭焼ぎ仲間(ながば)で、いづでも与蔵ぁそばで仕事してんなだけど。んだはげぁぇ、昼飯(みし)ん時(づぎ)なの、いっつも二人(したり)ぁ、一(しと)づん食うなだけど。
 ある時(づぎ)、二人(したり)ぁ、奥の庄内(しょうね)の境(さげあえ)さちっけぁぇどごの、沼のそばで炭焼ぎしったけど。ほうして、ほの日ぁ、作治あでぁぇぶ(大分)下の方で炭焼ぐ木伐ったけど。ほのうづん、昼まちけぁぇぐなたおんだはげぁぇ、与蔵ぁ、沼で汗(あべ)流してくんべどもて、沼んどさ行(え)たど。ほしたば、沼の少(すこ)す尻の方で、じゃぼんていう音ぁすっさげぁぇ、行(え)てみだば岩魚(ゆわな)いだあだけど。ほんで、与蔵ぁ、ほの岩魚ぼて、石さ入(へ)たどご手づがみんしてとたど。ほうして、もといだんねべがどもて、さがしたら、ほの沢の大っき石さ、四匹も五匹も入(へ)ったけど。与蔵ぁ喜(よろご)で、これだば昼飯(みし)ん時(づぎ)、作治ぁどさもかへるえどもて、串ささしてあぷたど。
 ほしたば岩魚だんだん焼げできて、ええ匂えあしてきたずおん。与蔵ぁ昼飯(みし)めぁぇだべ、んだおんだはげぁぇ、ほの岩魚の焼げる匂えけぁぇんだば、腹ぐうぐうて鳴てきたけど。始めのうづぁ食いでぁぇな我慢したども、ほのうづん我慢でげなぐなてしまて、しかだね、作治ぁこねはげぁぇ、来るまで一つだげ味見っが、ていうなで、一匹食てみだど。ほしたば、んめぁぇおんで、んめぁぇおんで、とうどう我慢でげねぐなてしまては、一匹食い、二匹食い、とうどうみな食てしまたけどは。
 ほうしたば、のどかわえできて、のどかわえできて、水のみでぁぇぐなて、沼さ口(くづ)つけで、がぶがぶど飲(の)だど。ほしたばなんぼ飲でも、これでえ、ていうごどあねぁぇくて、ほれごそ息つがず飲だけど。ほうしたば、頭さ角あ生(お)えできたけど。ほうしるんうづん、こんだ、みるみるうづん、与蔵ぁ蛇(じゃ)んでぁぇんなたけどは。
 ほんで、与蔵あ、どでして、
「あらあら、困またちゃ困またちゃ、おれぁ蛇んでぁぇんなてしまたは。なんずんしたらえがべ。これだば、家さも帰(け)あらんねぐなてしまたは。かがやわらす達どさも行がんねぐなてしまたは。困またちゃ困またちゃ。今(えま)作治も来(く)んべあ、このめくせぁぇ姿だば、作治ぁどさも見(め)へらんね」
 ていうど、どぼんと沼の中さ入(へ)ぁて行(え)てしまたけどは。
 ほうしたば、作治ぁ、下の方がら炭がまんどさ、上がて来たけど。ほうして、与蔵ぁいねおんだはげぁぇ、昼まんなたべぁ、与蔵ぁどさ行(え)たおんだべど思(も)て、
「与蔵、与蔵、ひるまだはぁ」
 て叫(さが)だど。んでも出はて来ねぁおんだはげぁぇ、昼まだでばどさ行(え)たおんだべど思て、沼のそばまで行(え)て、
「与蔵、与蔵」
 て、なんども叫(さが)だど。ほんでも出はて来ねけど。作治ぁ、与蔵ぁどさ行たおんだべ、おがしごどもあるおんだど思(も)て、まだ、「与蔵、与蔵」て叫だば、沼の水ぁ、ざざあっとなて、蛇んでぁぇ出はてきたけど。作治ぁどでして逃(ね)げんべどおもたども、腰あ抜げでは、動(えご)げねぐなてしまたけどは。
 ほうしたば、ほの蛇んでぁぇ、
「作治、作治。おれだ、与蔵だ。おれぁ沢の岩魚(ゆわな)あぷて食たば、のどぁかわぇでのどぁかわえで、沼の水、息つがず、すこでぁぇま飲だば、こげぁぇんなてしまたなよは、まずまず困またごどあ出来(でげ)でしまたは。こげた蛇んでぁぇの姿んなてしまたはげぁぇは、とでも家(え)さ帰(け)あえらんねぐなてしまたは。おめぁぇどさも、こんた姿見(め)へでぁぇぐねぁぇあだども、かがやわらす達さ、おれぁこげぁたかっこんなたはげぁぇ、家(え)さ戻らんねぐなてしまたて言(ゆ)てもらうべど思(も)て出はてきたあだ。おれぁ、こげぁたごどんなたはげぁぇは、あどぁ誰ぁどさも会わんねはげぁぇ、ゆっくん言 (ゆ)てころは」
 ていうど、まだ、ざざぁど、沼さくくて行(え)てしまたけどは。
 作治ぁどでしてどでして、わらわらど村さ逃(ね)げて行(え)たど。ほうして与蔵ぁ家のかがどさ教(お)へだど。ほうして、あどぁ誰ぁどさもあわんねていうけて聞がへだど。ほうしたば、与蔵ぁ家(え)のかがどでしてしまて、
「なえだて、おれぁ家のつぁつぁ、蛇んでぁぇなたて、まずまず、なえていうごどだべ。困またちゃ困またちゃ、おらどごおえで沼さへてしまたなて、ないていうごったべ。おらなんずんしたらえべ」
 て泣(ねあ)っだけどは。ほうして、
「なんたかっこなたてぇ、おれぁ家(え)のつぁつぁだおん。一生の別れだおん。行てあてこねんね、わらす達どさも、会わへねんね」
 ていうど、泣ぎながら、わらす達どご連(つ)で、ほの沼さ行たど。ほうして、沼のそばで、
「つぁつぁ、一生の別れだおん、なんた姿だてえはげぁぇ、もう一度(いぢど)姿見(め)へでころ、わらす達どさも会(あ)てころ、つぁつぁ」
 て、大っき声で叫(さが)だど。ほんでも、ながなが出はて来ねけど。ほんで、かがあ、まだ、
「つぁつぁ、つぁつぁや。もう一度姿めへでころ。一生の別れだおん、あわねば諦(あぎら)めらんね」
 て叫だど。ほうしたば、沼の水ぁ、ざわざわど鳴て来て、ざざっていうど一丈もあるよだ大っき蛇んでぁぇ、姿あらわしたけど。ほうして、
「えぐ来てくっだ。おれぁ、こげぁぇた姿んなてしまて、さだげねはげぁぇ、出はらね勘定(かんじょ)でぁぇったども、一生の別れだて言(ゆ)われっど、おれだてお前(め)どごやわらす達どご、もう一度見でぁぇはげぁぇ出はてきた。まずまず、おらは、ないの因果だおんだんだが、沢の岩魚五、六匹食たば、のどぁかわぇで、のどぁかわえで、沼の水、がぶがぶど飲だば、こげぁぇた蛇んでぁぇんなてしまたなだは。こげぁぇんなてしまてがらだば、なんずもさんねはげは。おれぁ死だど思(も)て、あぎらめでころは。お前(め)どさばり、これがら難儀さへんども、わらす達も、もう少(すこ)すで大っきぐなんなだはげぁぇ、体ばりでぁぇずんして(大事にして)、達者でくらしてころ。わらす達どご頼むぞ。ほうして、おれぁおめだどご、陰ながら守(まぷ)てっさげぁぇな。んでぁ、これっきりだぞ」
 ていうど、まだ、水ざざって言(ゆ)わへで、沼んながさ入(へ)て、見(め)ねぐなてしまたけどは。
 かがやわらす達ぁ、なんぼ「つぁつぁ、つぁつぁ」て、泣ぎながら叫だて、ほれきり出はてこねけどは。んだおんだはげぁぇ、かがやわらす達も、諦めで、家さ帰(け)ぁぇたけどは。
 ほれがら、ほの沼、与蔵ぁ入(へ)た沼だはげぁぇ、ていうなで、〈与蔵沼〉どつけだぁだど。
 とんぴん からんこぁ ねっけどは。
>>及位の昔話(一) 目次へ