7 聟えらび

 むがしあったけど。
 あるどさな、田がら畑がら山まで、えっぺぁぇ持(も)た金持だ長者いだけど。ほうして、ほごの家(え)にぁ、わがぜぇ(若勢)がら女人達(おなごしだづ)三十人も使てる家(え)であったど。ほんで米なの倉さ、ほれごそ数(かじえ)たでならねくれぁつまてるおんだけど。
 ほの長者家(え)にぁ息子ぁいねくて、子供づぁ娘たった一人(しとり)ばんでぁぇったど。ほんで長者ぁ聟もらわねんねど思たど。んでも、ただの聟でぁ駄目だ、頭のえ、働ぎおのんねば、この身上(しんしょ)持て行(え)がんねはげぁぇ、さまざまためしてがらもらわねんね、て、いだけど。
 ほんで、ほのためすずぁ、まず倉さ積んだ米だら何俵あっが、たばこ二服吸ううづん、勘定(かんじょ)すろてだけど。ほれがらな、二間ばりある下の川、足ぬらさねで渡れていうなだけど。ほれがらなぁ、もう一(しど)づぁ、千刈ともでの畔、烏の足あどつけねで、一日で塗れていうなだけどや。
 ほうしたば、おれぁ聟んなる、おれも聟んなるて、若ぁぇおの来たけど。んでも倉さつまった米だら、半分も勘定すねうづん、たばこ二服吸わっですまて、駄目だけど。ほれがら、まだ、次々ど若ぁぇおのだぁ来てためしたども、誰もみな米勘定で引かがてしまて、二番目のためすまで行(え)ぐおのぁいねけど。何人来てもだめで、すばらぐぁどぁ若ぁぇおので、おれぁ聟んなっでぁぇていう者(おの)ぁ来ねけど。
 ほうしていだば、ある時(づぎ)、若者(おの)ぁ来たけど。ほの若者ぁ、体もがっつりして立派だし、見たどごも利口(りご)そだ、ええ若者だけど。ほの若者ぁ、まづ米倉の米俵(こめだら)何俵あっが勘定してみろて言(ゆ)わっで、倉の方さ行(え)たば、長者の娘ぁ、裏の方で子守(こんも)りしったけど。ほうして、子守唄うだったけど。ほの子守唄きっだば、
   倉の米だら勘定へ 勘定へ
   十俵ずつ積(つ)まて 十(とお)で百、十で百
   百ずつ十で 千俵十で千俵
   ねろねろや ねろねろや
 て、歌ったあだけど。ああ、おれどさ教(お)へっどて歌ったあだな。て分がたけど。ほお、十俵ずつ積まてんなが、んでぁ十で百俵だずんだ、んでぁ百俵ずつなんぼあっがかんじょへば、ほんたおのぁすぐわがる。ど思(も)て倉さ行たど。
 ほうしたば、長者先ん来て待じっだけど。ほうして、キシェルさ煙草つめでいだけど。ほして、若者ぁ行たば、ほれさ火つけで「ほらっ、ええぞ」つけど。ほうすっど若者ぁ、百俵ずづなんぼあっが、走してありて勘定したど。ほしたば千五百俵あんなだけど。ほんで、
「千五百俵ありあすな」  て言(ゆ)た時(づぎ)あ、長者やっと一服吸ったばりだけど。ほんで長者ぁ、
「よしよし、えぐ勘定した」
 ていうけど。ほうして、
「兄んつぁ、兄んつぁ、こんだ、明日、下の川、足ぬらさねで渡てみろ」
 つけど。ほんで若者ぁ、まず、一(しと)つ出来(げ)だども、下の川足ぬらさねで渡れ、言(ゆ)わっだて、二間もその余(よ)もある川だおん、なんずして渡たらえがべ、ど思(も)て、ほどほど困てだけど。
 ほうして次の日、まず川んどさ行(え)てみんべど思(も)て、裏さまわたば、まだ娘ぁ子守りしながら唄うだったけど。ほんで、まだ、だまって聞っだば、
   下の川跳ねるにゃ
   なんげぁぇ棒でしと跳ねだ
   なんげぁぇ棒でしと跳ねだ
   ねろじゅは ねろじゅは
   ねろねろや ねろねろや
 て歌ってだぁだけど。ほんで、ほの若者ぁ、「ああほっか、川のまん中さ、長げぁぇ棒つで跳ねればええ勘定だ」て分がたけど。ほんで、ほごらあだり見たば、そがぎする長げぁぇ棒ぁあっけど。ほんで、川のそばん居た長者んどさ行(え)て、ほの棒、川のまん中さつで、たぁだしと跳(と)びん跳(と)でめへだど。ほしたば長者ぁ、
「ほう、えぐ考げぁぇだおんだ。まず、これでしたっつ出がしたな。んでぁあど一(しと)つだ。まだ、明日、こんど千刈ともでの畔一日で塗てみろ。んでも、烏の足あどつけっど駄目だぞ」
 つけど。ほんで、ほの若者ぁ、これだば二日も三日もかがんべぁ、ほれも塗れば片っ端がら、烏あつぶくいでぁぇくてありてしまうべぁ、はぁで、何たごどして塗(ぬ)たらえべど思(も)て、困まていだけど。
 ほうして、困ては、裏の石垣さ腰かげで、工面しったけど。ほうしたば、晩方しめぁん、まだ、娘ぁ裏口んどごで、こんもり唄うだったけど。なんたごど歌うだったおんだべど思(も)て、まだ、だまって聞っだば、
   千刈ともでの 畔ぬるにぁ
   朝おりめぁぇに 畔けずれ
   ともででひるみしくて土つけろ
   ばんかだしめんくろなでろ
   ほらねろ ほらねろ ねろねろや
 てうだったなだけど。ほんで若者ぁ、ああ、あの娘ぁ、まだおれどさ教(お)へでくっだぁだなど思(も)ていだど。
 ほうして、次の日んなっど、ほの若者ぁ、朝まうす暗(くれ)ぁうづん起ぎで、ともでさ行(え)て、田の畔けつたど。ほうして、朝みしもおそこそして、まだ、けつて、昼みしめぁぇにぁ、削り上げで、昼みし後もででくて、畔さ土つけでえたど。ほうして晩方しめぁぇん、烏あ夜上がりしたどご見で、畔でらでらど撫でで行(え)たど。んだおんだはげぁぇ、田の畔さ、さっぱり烏の足あどつがねで、千刈ともでの畔ぬり上げだけどは。ほうして、暗ぐなてがら夜上がりして、長者どさ、
「でかして来たはげぁぇ、見で呉(こ)ろ」
 て言(ゆ)たど。ほんで、長者見ん行(え)てみだば、千刈ともでの田の畔ぁ、烏の足あど一(しと)づつがねで、みな出来(げ)っだけど。
 ほんで、長者たまげでしまたけどは。んだおんだはげぁぇ、この若者だば、智恵もあるし、働ぎ者でええ若者だ。これだばこの長者のあどとりんでげるていうなで、娘の聟んしたけど。ほんで、ほの若者ぁ、長者の聟えなて、仕合 (しっしゃわへ)せん暮したけど。とんぴん からんこぁ ねっけどは。
(集成一二八「娘の助言」)
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