5 化げおのむがす

 むがすあったけど。
 旧村(真室川町及位)に甚助ていうどやいだけど。甚助ぁ毎日、庭さふえご置えで、村々まわて、鍋さ穴開(え)っだり、かまこさ穴開(え)だり、耳あ欠げだ、つるぁ折っだなていうな集べできて、ほれいがで(鋳かけ)暮してんなだけど。ほうして毎日ふえごんどごさ寝まて、とこひこ、ふうふう、とごひこ、ふうふうて、ふえご動(えご)がしていだけど。
 ほうして暮してる時(づぎ)、どやのかが病気んなて長わずれぁで寝でしまたけどは。甚助ぁ医者だ薬だてあづがたども、あんべえぐねくて、とうとう死にそんなたけどは。ほうして死にそんなたば、ほのかが、                                            「おれぁ死んだら口(くづ)赤ぐぬて、眼(まなぐ)のあだり銀いろんぬて、仏壇さかざたまま、埋(ん)めねでごろ」
 て、遺言して、とうどう死でしまたけどは。
 ほんで甚助ぁ泣ぐ泣ぐかがどご棺さ入(へ)で、和尚さんどご連(つ)できて、おがてもらたど。ほうして、かがに遺言さっだとおり、口赤ぐぬてくっで、まなぐのふづ銀いろん塗てくったど。
 ほうして、毎晩おがでだば、ある晩、ほの棺箱ぁ、みつみつという音ぁすっけど。甚助ぁどでして、おかねぐなて、庭のふえごんどさ寝で居(え)だど。ほうしてみっだば、
「てでごあいだが。てでごあいだが」
 て、棺箱の中でいうなだけどや。甚助ぁおかねくて、
「こごんいだ。こごんいだ」
 て言(ゆ)いながら、とこひこ、とこひこ、ふぅふぅて、ふえご動(えご)がしったど。
 ほうすっどこんだ、死だかがぁ、鬼婆んばんなて、棺がら出はてきたけど。まなぐぶづば銀いろんして、口(くづ)ばあげゃぐしてだべ。ほうして大っき口(くづ)えで、
「てでごあいだが。てでごあいだが」
 て、甚助ぁいだほさ来(く)んなだけど。甚助ぁおかねくておかねくては、寝まてらんねくて、逃(ね)げだど。んでも、ほの鬼婆んば追(ぼ)て来んなだけどや。
 ほんで甚助ぁ、となりの家さ逃(ね)げで行(え)て、
「今(えま)、おら家(え)の死だかが、鬼婆んば化げで追(ぼ)てきたはげぁぇ、どうがどさが隠して呉(こ)ろ」
 て言(ゆ)たば、
「んだがんだが。ほれぁおかねごった、みんな鬼の豆くて、布団かぷて寝っだ方(ほ)ぁぇ」
 て、ほごの家(え)でぁ、みんなどさ鬼の豆食(か)へで、布団かぷて寝ったど。
 ほうしたば、髪やしゃやしゃどさへで、おかね顔面(つら)しった鬼婆んば、
「てでごぁいねが、てでごぁいねが」
 て、手前(め)ぁぇさ出して来て、布団かぷて寝っだな、一人(しとり)一人、くふん、くふんてけぁぇで、
「これぁてでごんね、これもてでごんね」
 て、みんなどごかぐけど。みんなおかねくて、布団の中で、ぶるぶるふるえっだけどは。
 ほうしているうづん、ほごさ猫ぁ来たけど。ほしたば鬼婆んば猫ぁどごけぁぇんだけど。猫ぁ鬼の豆なの食(か)ねべ。んだおんだはげぁぇ鬼婆んば、猫ぁどごしめで、
「てでごぁこれだ」
 ていうど、いぎなりほの猫ぁどご、がりがりむしゃむしゃど、食(く)てしまたけどは。ほうして猫ぁどご食(く)うど、鬼婆んば、どさが行(え)てしまて、ほれきりいなぐなてしまたけどは。
 んだはげぁぇ、鬼の豆くうど魔除げんなるはげぁぇ、鬼の豆づぁ食(く)うおんだど。
 とんぴん からんこぁ ねっけどは。
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