16 蛇聟入

 大きな百姓してで、前田千刈り、裏田千刈り、水が来なぐなって困っていだど。
ひどい日でりでな。
「この田んぼに水掛け手伝った人あったらば、おれ、三人の娘いるうち、どれで
もええな呉(け)でやってもええ」
 そしたら、蛇がきて、
「おれが水掛けて呉(け)っから、おれさ娘呉るが」
「どれでもええな呉る」
 ていうたところが、ほれ、この通り、水掛けてもらって大豊作結んだべ。んだ
から是非とも、どれか呉てやらんなね。こりゃ大変なこと出たと思ったのっだな
ね。
「お前だ三人のうち、誰か嫁(ゆ)く人、いねか」
「べらぼうな、誰ぁ蛇さ嫁(むか)さって行く人あるごんだ」
 て、一番上の姉から言わっだ。二番目の姉もそういうたど。
 ところがほれ、一番ちっちゃこいな、
「ほういうわけだら、おれは行ぐ、何も心配すっことない。御飯たべたらええが
んべ、寝ていねで」
 て、親ば安心させだど。
「お前は親孝行だ、よしよし、お前のええやつ何でも買ってやるから、嫁(い)ってく
れな。買ってやるやつ何ぁええ」
 ところが、娘が賢くて、
「針千本とフクベンチ、買ってくれ」
 て、ほしてほの針千本とフクベンチもらって、高い下駄なんかさまざまなもの
買ってもらって、嫁(い)ぐことになったど。その晩、蛇がええ男になって、娘もらい
に来るわけだ。
「娘もらいに来た」
 見たところが、えらい立派な紳士だど。
「ほだなええ男だったら、おらも行ぐがった」
 ていうげんども、三番目の末の娘が、山越え野越え行ったんだど。
 ところが大きな沼あったど。ほうしてその沼さ行ったれば、
「おれ、ここの沼の主だ」
「ほんだら、このフクベンチを沈めたごんだら、お前の嫁になるから」
 て、ほのフクベンを沼さ浮かしたていうんだ。ところが、蛇体になってフクベ
ン沈められるもんでない。ほうしてフクベン、一生けんめい沈めんべと思ってか
かったな、そいつさ、針千本まいたなだど。そしたら針がささって、針のために
蛇体が弱って死んでしまったど。どーびん。
(砂子関・工藤馨)
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