15 法印と狐

 湯殿山、月山詣りの法印さまが、途中に来るべきときに、狐が昼眠しったっけ。
 ところが法印さま、むかしはホラの貝もって歩って、
「ああ、畜生、こりゃ、昼眠してやった」
 て、ホラの貝、狐の耳さあてて、ボォーと鳴らしたところ、おどろいて飛び上
がって、ほうして逃げて行って、ふり返って見っだっけな、狐ぁ。
「畜生、魂消えて行ったはぁ」
 て見っだ。ほうしてものの二、三町も行ったと思ったら、まだそんなに暗くも
なんねと思ったのが、空、一寸先も見えねように暗くなってきたんだもの。
「何だてした。こんなに早く日暮れるわけない」
 んだげんど、ちっとも歩かんね、暗くて。
「こりゃ困った」
 ほうして山道、手さぐりで行ったところが、はるか向こうに小さな光ぁ見える。
「はて、あそこに光ぁ見える。あそこまで何とかして、這っても行かんなね」
 ほうして、ほれ、手さぐり足さぐりではぁ、行ったところが、ばあさんが一人
ばりいた。
「こんばんは」
 て行った。
「何とも、かんとも暗くなって、右も左もわからね。どうか今晩一晩泊めて下さ
れ」
「泊めてもええが、おらえの家はこの通りのあばら屋で、何にもないげんども、
ほんでもええごんだら泊らっしゃい」
 て、ばあさんが言う。そうしていたところが、何だか菰かぶりみたいな、脇さ
寝っだのがいる。ところがそのばぁさんが言うには、
「おらえのじいさんが今逝くなった。隣の村まで知らせして来(く)らんなねなだがら、
お前、留守居して待ってで呉(け)ねが」
 て言うた。いや困った。
「いや、ほだごと分んねっだな」
 ていうたげんども、「頼みます」て、ばさま出はって行ってしまったて。ほうし
ていたところが、約一刻ばりたったところが、その菰が動き出した。ずうーっと
動き出した。何ともものすごい。じいさんが顔振って起き上ったって。
「うー、うらめしや」
 て、起き上がってきた。
「おっ、おっかない」
 ものすごい顔して来るから、だんだん、だんだん、尻こぎして、こりゃまぐっ
で行ったと思って目覚ましてみたれば、お日さま真中で明るくて、見たれば狐来
て、狐ばたぶらかしたんで、われは狐からたぶらかさっだんだって。
(砂子関・工藤馨)
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