8 猿と雀

 とんと昔あったけずまなぁ。
 おらえの軒先さ、雀、卵産したけど。ほうしたれば雀どの、喜んで卵産して、
チョロンチョロンて鳴いっだけど。ほうしたところが猿畜生、ほこらえ居でで聞
きつけて、
「なになに、卵産した」
 て来たど。ほしたら雀ぁ、えらい喜んでチョロンチョロンて鳴いっだどこさ、
猿が聞きつけて、
「卵なしたな、おれさ一つ呉ろ」
「ここな卵、おれな子どもだも、呉(け)らんねぇちゃ」
 て言うたらば、
「ほだごと言うごんだらば、南蛮味噌つけて、お前がらみ呑んでしまう」
「ほだれば仕方ない、おれも食べられっごんだらば、呉(け)っこではぁ」
 て、一つ呉だ。ところぁ三粒産した卵だけど。
「ほんでは、ほれ、一粒、んだら呉っこではぁ」
 て、呉だれば、何、ちょいら口さ入っでカリゴリ、カリゴリ、ウッと呑んでし
まったってだ。ところが、
「うまい、うまい、うまい、いま一つ呉(け)ろ。三つあるった、んねが、いま一つ、
呉ろ」
「こだな、二つとか無いなだも呉らんね」
「ほだごど言うごんだら、また南蛮味噌つけて呑むぞ」
 猿ぁ言うたど。
「んだれば仕方ない、また呉っこではぁ」
 て、呉だ。ところぁまたちょいら口さ入っで、カリゴリ、カリゴリ呑んだ。と
ころが、
「ああ、やぁ、うまい、うまい、うまい。どうせこうせ、みな呉ろはぁ」
「何、何、ほだごど言うど、ニサ(お前さん)がらみまた南蛮味噌つけて呑むぞ」
 そういったところぁ、
「んだれば仕方ない、みな呉っこではぁ」
 て呉た。ところがまた口さちょいら入っで、カリゴリと呑んでしまった。
「あぁ、うまいがった、こんど無くなったら、行んこんではぁ」
 猿ぁ、ほれ、行ってしまった。ほうして、雀はチョロン、チョロンて鳴いっだ
ていうなだ。ところぁそこに一番早く聞きつけて来たのは栗だて言うんだね。
 栗ぁ、
「雀もさ、雀もさ、なして、ほだえ泣きやる」
 てきたんだて。
「雀もさ、雀もさ、なしてほだえ泣きやる」
 て来たんだて。
「猿もさに、雀の卵、みな取られ申した、チョロン、チョロン」
 て泣いっだ。ところぁこんだ、牛のビタクソ来たていうんだな。ビダリビダリ
と来た。
「雀もさ、雀もさ、なしてほだえ泣きやる」
 ていうたれば、
「いやいや、いや。猿に卵、みな取られ申した、困ったことでました。チョロン
チョロン」
「よしよし、おれぁ仇とって呉る」
 ほうしたところが、こんど餅搗く臼、はいつぁゴロゴロ転んできたていうんだ
な。
「なしてほだえ、雀もさ、雀もさ、さっきだから、おれ聞いでる、ほだえ泣きや
る」
「猿ぇ卵、みな取られ申した」
「いやいや、猿ちくしょう、ええぐない畜生だ、おれ仇とって呉っさげ、泣きや
んな」
 ほうしていたところが、こんどは、ぶーんて何だと思ったれば蜂だていうんだ
な。
「雀もさ、雀もさ、なしてほだえ泣きやる」
「いや、猿に卵みな取られ申した。なんぼ泣いだても足(た)んねごんだ。チョロン、
チョロン」
 て泣いでる。
「よーし、よし、おれぁ仇とってけっさげ、泣きやんな」
 したところが、こんどぁ、猿もさ、ほれ、向いさ川漕いであっちの方さ行って
いたど。ところがほれ、こんど、蜂だの、臼、栗だ、
「何とかして仇とってやる」
 て、相談した。ほうして向いさ行って待っでだていうなだ。猿の家さ来て待っ
でだなだど。
 ビダクソぁ来っどすべってころぶように、戸の口さ。こんどぁ臼ぁ屋根の上さ
あがって、ほうしてぶんぶん味噌桶どこさかぐって待ってだてな。栗ぁ火焚く囲
炉裏の中さかぐっでいだっていうんだな。ほうしていたところが、
「ああ、さむいさむい、さむい。なんだて川漕いできて寒くなった。火焚いで当
んべ」
 て、ごもごもて焚いてたところが、栗ぁ囲炉裏の中さ隠っでだ。どーと燃えた
わけだ。ところがほの栗がバーンと、きんたまさはねだてな。
「あっい、あつい、あつい」
 て、水飲みさ行って、こんど味噌つけんべと思って、ところが蜂がきて、ジュ
グジュグ刺さっだ。
 それから蟹もいた。水さきんたまうるかすど、蟹ぁきてはさむなだな。そして、
「これぁ、とてもいらんね」
 ていうわけで、逃げらんなねていうわけで、戸の口さ行って、がらり戸を開け
て、ほうして逃げたところが、牛のビダクソあるもんだから、すべって、ズルリ
すべったど。その上から餅搗く臼落ちてきた。ほして仇とらっだけど。んだから
悪いことはするもんでないど。どーびんさんすけ、さるまなぐ、さるのけっつは
まっかっか。
(砂子関・工藤馨)
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