7 かちかち山

 むかしあったけずもなぁ。
 じんつぁとばんちゃいだけど。じんつぁ、毎日豆植えで、
   一つぶ植えたら千になれ
   二つぶ植えたら二千になれ
   三つぶ植えたら三千になれ
 て、ほれ、じんつぁ植えでっど、狸畜生、出はってきて、
   一つぶ植えたら くっされろ
   二つぶ植えたら 流れろ
   三つぶ植えたら おれぁ食う
 て、「この畜生」なて、じんつぁ、追(ぼ)うていうなだど。追って行ぐずど、逃げて
行ぐていうなだど。逃げて行って、すっどまたじんつぁ、
   一つぶ植えたら千になれ
   二つぶ植えたら二千になれ
   三つぶ植えたら三千になれ
 て、毎日続げっけんども、やっぱり狸畜生きてわかんねて。
「なぜかことないんだか」
 て、石の上さ、じんつぁ考えて、モッチこしゃえで、
「ばんちゃ、ばんちゃ、狸きてわかんねだはげて…」
 て、ばんちゃと相談して、モッチ持って行ってだど、石の上さビダーッて塗っ
ていだんだど。そしたら、ガサガサ、ガサガサときて、石の上さきて、
   一つぶ植えたら くっされろ
   二つぶ植えたら 流れろ
   三つぶ植えたら おれぁ食う
 ていう。じんつぁ逃げられっど思って、二、三度かまねで植えっだていうなだ。
はいつ今度いまいましくなって、
「この畜生」
 ていうたれば、狸はモッチではぁ、石さびったり、ふっついてはぁ、逃げらん
ねぐなったどこはぁ。ほしてじんつぁ、せめて来たていうなだな。生捕りして来
たどはぁ。縛ってなぁ、縄で縛ったかツルで縛ったか、家さ来て、
「ばんちゃ、ばんちゃ、狸せめてきた」
 ばんちゃは、
「はいつぁええごんだなぁ、ほんでは狸汁、御馳走なるいっだな」
 て、一生懸命、ばんちゃ、麦搗きしったっけったんねがや。
「晩げは麦飯、狸汁。トンカエ。晩げは麦飯、狸汁」
 て、搗いっだていうなだ。ほして搗いっだれば、ほれ、そいつ聞いて狸はぎり
ぎり縛らっだべげんど、
「ばんちゃ、ばんちゃ、少しここ足痛いから、ゆるめて呉ねが」
「お前、狸などゆるめらんね。逃げられっど、悪れ。じんつぁも居ねどき」
「逃げで行かね、足痛くて仕様ない」
「駄目だ」
 ていうげんども、晩げ狸汁にされるんだから、あんまりむずこくて(かわいそ
うで)、少しゆるめで呉だれば、グイグイとしてはぁ、解いではぁ、いきなり杵を
とって、ばんちゃば殺したんだどはぁ。杵で叩いではぁ。ほして知しゃねふりし
て、ばんちゃば埋めてきてはぁ、ばんちゃに化けで手拭かぶっていたど。じんちゃ
来たれば、ほれ、ちゃんとばんちゃの肉料理していたんだど。そしてじんつぁ来
たらば、ちゃんと狸汁こしゃって御馳走こしゃっていだていうなだ。
「なんだか、しなこいな、ばさま」
「うん、しなこいっだな、狸だな」
 ほしてこんど食ってで、一杯飲んでで酔ったてだな。ばんちゃ踊りおどったて
だな。ほして踊りおどりながら、
   狸汁食うどて ばば汁食った
   狸汁食うどて ばば汁食った
 て、狸は言うなだど。ほうしたればじんつぁ、
「なえだ、こりゃ」
 ていうけぁ、逃げて行ったんだどはぁ、狸は。ほんでは化(ば)やがさっだんだ。ば
んちゃ殺さっでだんだて。そこらうち見たれば、やっぱり着物はあるし、ばんちゃ
殺さっだんだけど。ほして、じんつぁ困んべずねぇ。泣いっだれば来たていうな
だ、兎。
 ほしたれば、
「おれ、仇とってけらんなね」
 どて、兎は考えて、狸どさ行って、
「狸どの、狸どの、山さ行って柴伐りすんべ」
 て行って、
「おれ、少し柴伐したな、狸どの、背負って呉(け)ろ」
 途中まできて、ほしてこんど、
「何か、おれ、腹いたくなった。おぶって呉ろ」
 狸は、
「なえだ、ほんでは困ったんだな。ほんではおれの柴の上さあがれちゃ」
 て、おぶったていうなだな。ほして来っどきていうんだ。柴さ火つける勘定し
て、火打ちでカチカチって。
「なえだ、兎どの、何だや、何すんのだ。何かすんのであんまい、煙草でものむか」
「んねぇ」
「なんだべ」
 ているうち、火点けで、どんどん燃えだてなだ。チュルチュル、チュルチュル
ていだけぁ、どんどんて燃えだていうなだ。
「こりゃこりゃ、火燃えだ」
 なているこめ(いるうちに)、どんどん燃えて背中燃けだていうなだ。
 そしてほれ、兎は何かええ薬ないべかて狸から言わっだど。そんで南蛮粉入っ
だ薬つけてけだなだど。
 今度、ええぐなったてだな。ほして、
「舟でもこしゃって、どさか湯治でも、遊びでも行くべ」
 て、兎ばだまして言うなだな。兎は、
「おれなはええげんども、狸どのは力あっさげ、壁土でが。おれなは、狸どのみ
たいに力持ちでないはげて、板っ端で杉舟だはぁ」
 なて、こしゃったてなだなぁ。ほして兎は、
  杉舟はツエン 釜土舟はゴグラ
  杉舟はスウー 釜土舟はゴグラ ゴグラ
 て、ゴグラ、ゴグラている。
「ありゃりゃ、なえだ、なえだ」
 ているうちに、狸はスブズブ、ズブズブと沈んで行って、仇とらっだんだけど。
兎にな。んだはげて、ほだな悪れごどさんねずなぁ、ほれ。どーびんさんすけ。
(砂子関・悪七)
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