9 ぶいろめの由来

 この楢下の宿に、〈ぶいろめ〉ていう地名ある。
〈ぶいろ〉ていうのは〈かげろう〉の一種だ。
 むかし、旧藩時代に、どこの地にも、不良兎というところあった。不良兎ていうのは、しょっちゅう増水して、水増しして流されるところとか、あるいは山沢の冷水かかり、米が六俵穫れっどこ、三俵しか採れねどこどかという、そういうどこを言うたもんだ。殿さまもそういうどこは〈出しぞく=年貢〉も少ながったど。
 ところが、そいつが困ったことに廃藩置県になって、いろいろ売らんなねことになったりした。ところがどこさ行っても「不良免」ていうと半分の値もしねどこだ。んだもんだから、楢下では、頭のええ人いで、不良免と〈ぶいろ〉の目、取り換えだんだど。
〈ぶいろめ〉だていうていで、いざ登記になっど、「不良免」だど、これ。て、〈ぶいろの目〉のつもりで買ってみたれば、不良免だ。
「不良免でなくて、あそこ〈ぶいろめ〉なはずだ」
 て。早い話、うまく誤魔化さっだもんだど。今でもそこ「不良免」ていう人誰もいねくて、〈ぶいろめの田〉ていうて、地名になっている。
 それは、楢下が殿さま、送り迎えする時代には、非常に荷背負いだ、何だて、いわゆる仕事があって栄えだげんども、廃藩置県になって、街道からとれる金がなくて困った時代あって、田地田畑、六・七割、他所の人に買わっでしまった時代があったんだって。ほんどき売るために、不良免ば、〈ぶいろめ〉にしてしまったんだって。
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