6 旦那と小作

 むかしむかし、この宿に少し頭もええんだげんども、つうと(少し)旦那衆なもんだから、少し(おお)らかな人いだったて。
 ほの人が、ある人と山さ()(ぐさ)刈りに行った。ところが、一生けんめい刈って、草重いもんだから、干して軽くして背負うために、刈って干しておいて、そいつ束ねて後で背負ってくるわけだ。干草刈りていうな、昔やって……。
 ところが昼飯たべて、昼休びして、昼眠しったれば、相手が眠ったと思って、人のええ人が、胴巻きから、くるくるくるとほごして、何すんべと思って、眠ったふりして見っだれば、銭勘定したって。ちゃがらん、ちゃがらんて、何んぼ勘定すっと思ったれば、三十両勘定したって。
「ははぁ、銭三十両勘定した。よしよし」
 て、ほの一緒に行った人ぁ、夕方になってから何くわぬ顔して、
「先生、先生、今夜、おれ、女郎衆おごるやぇ」
 ていうたって。
「ほう、お前、女郎衆おごるなて、めずらしい。他人さばりおごらせてばりいたお前が、おごるなんて、んでは、お前にだら、おごらっでみたい」
「先生、ほのかわり条件がある」
「条件つぁ、何だ」
「まず、のぼりくだり人力車で引っぱってもらわんなねっだなね、おれぁおごるんだから」
「いや、ほだな、いと易いごんだ。んでは人力車貸っで来っぞ」
 ていうわけで、人力屋さ来て、
「ほれほれ、人力車貨して呉ろ、なんぼだ」
「三十銭もらわなねっだなね」
「なんだ三十銭つぁ、はなしあんまいな。登り下り引っぱって十五銭。三十銭つぁはなしあんまいな」
「いやいや、素人さ貸すと、とてもじゃないげんども、どこここなく走ってあるくもんだから、車損じて何とも仕様ない。三十銭で不服だら、おれ十五銭で引っぱんなだから、のらはれ」
 と、こうなったわけだど。したれば、
「いや、まず、ここさ三十銭置いたよ」
 て、借りできたって。カラカラて、引っぱってきて、
「んだら、のらはれ」
 ていうわけで、ほの人のええ旦那衆は車夫だずも。ほれ。股引はいて、尻はしょってよ。
 こんどは今迄、小作人のよくよくふんじゃったみたいな人は、旦那だずも。羽織・袴で、白い羽織のヒモつけて、ほして人力さふんぞりかえったずも。ほして人と行きあうたんび、威張るわけだずも。
「うっふん、うっふん」
 て、威張る。んだど、
「あらぁ、先生ぁ引張って、小太(小作人)は、ありや旦那になって、のって歩く。いやいや、世の中変ったもんだ」
 て。んだど、ほりゃ人と行き会うたんび、
「うっふん、うっふん」
 て。
「うん、小太、うっふん、うっふんて、あんまり言うな」
 なて、引張って行ったなて。
 ほして、上山の町まで行ったれば、小太は、
「お客さんだよう」
 て、ダミ声出したずま、ほれ。ほしたれば女郎衆だ、皆集まってきた。ほして先生の買いつけしった、なじみの女郎衆は、
「あらら、あなた、楢下での資産家だなて、おれさ嘘ついっだげんど、いつから車夫になった」
 ていうわけだずも、ほれ。
「小太なて、おら()の小作人だの、おら家の奉公人だなていだっけぁ、小太が旦那だどれ」
 ていうんだど。
「いやいや、ときによっては、ときによっては……」
 て、いだったなて。ほして、小太は、
「今夜は、女郎総上げだ。いただけ全部上げろ、ほして帳場から筆と墨もって来い」
 ほして、筆と墨もってきて、〈一両〉て書いて、(ひたい)さ、そいつ貼って()だど。ほうして上山始まってから無いドンチャン騒ぎしたど。ほしたけぁ、次の日なったっけぁ、ほの小太は頭おさえて、
「いやいや、頭痛い。何だてこりゃ頭痛い、まず」
「頭痛いなて、何した」
「先生、銭貨してけろ、まず」
「銭なて、おれぁ持たね」
「持たねなて、あんまいな、昼間勘定しったけどら、チャガラン、チャガランて」
「この野郎、見てきづがった」
 ていうわけで、三十両払ったど。一晩で三十両だずもね。昔の金で。
「こうなれば、五分と五分だ。帰りはお前引っぱれ」
 人力、小太、引っぱらんなねぐなったずも、ほれ。ほしたら、
「先生、先生。おれ引っぱるはええげんども、おれ引っぱったら、割カンたな、ねぇ」
 ていうたど。
「うん、十五両。ほんでは駄目だ。おれ引張る」
 ていうて、ほしてまた、ほうほうて引っぱってきたど。ほして来る時もまた威張るわけだずも。小太は、
「うっふん、うふん」
「うん、あんまり威張るな」
 て、引っぱってきて、ほして銭三十両、神棚さ上げだった、ほら、どっちゃ置いっだったなて、とうとう、はいつ取らずじまい、ただ、のぼりくだり人力車で引っぱって、女郎衆おごって、きまり(終り)だったなていう話だったど。
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