4 養老の滝

 ある山間避地というか、ずうっと山奥に、おっつぁんと息子だけ暮していだった。
 ところが、ほのおっつぁんが病気して、息子が、ほこらここらから薪集めて売って、細々ながら暮してだ。ほんでほのおっつぁんが病気してでも、なえったて酒好きで酒飲まねでいらんねがった。んだから酒屋さ行って、ほれ、自分の食いものつめても、酒飲ませる若衆だった。
 ところが近所の山には、すでに薪もなくなった。若いもんだから、
「んだらば、()た山も越して、向うの大きい山さ行ったらば、薪、うんと落っでるでないか」
 て、ほこさ行ってみた。ところがほこには薪がいっぱいあった。
「よし、ここで一勝負して()ましょう」
 て、薪一生けんめい拾って来っど思ったら、ほの、足滑らかして谷さ落っで行った。ほして何時間おもったものやら、朝の冷気で、はっと気付いてみたれば、沢こさ落っでいだっけはぁ。
 ところが、ほの沢こさ()っで見たれば、何となくすばらしい香りがしてくる。沢の方から、何だべ、鼻ひくひくさせてみたれば、酒の匂いだ。
「はあ、こりゃ、酒の匂いだ」
 ていうわけで、その匂いする方さ行ってみたれば、こんこんと湧き出でて、ほっから流っで滝をなしていた。して、ほの滝壺からフクベン汲んで、家さ来て、おっつぁんさ飲ませた。ところがほの酒のうまいことったら、まずこたえらんねようだし(うまくてうまくて何ともいえない)、今まで腰も立たねようなおっつぁんが、たちまち元気になった。ほして、こんど、ほれ、その話がずうっと、そっちこっちさ広がって、京の都までひろがって行った。ほして、年号を養老と改めて、その滝ば「養老の滝」というた。ほしてその息子とおっつぁんも、こんど働けるようになったから、二人して働いて、らくらく暮したけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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