20 猿と蛙(びっき)

 猿と蛙(びっき)いたったと。正月に餅食(く)たくなって、蛙は井戸の中さ入って赤ン坊の泣きまねして、そのすきに猿は臼がらみ餅とって背負って行ったと。蛙はやっと、そっちゃぶっつけ、こっちゃぶっつけ、石の中から上って山さ行ったれば、猿ぁ餅、自分ばり食いたくて、
「ここから臼転がしてやっから、誰でも早く捉えたものが、皆食うこと」
 の約束したごんだと。そうすっど、一二三、ごろごろと、臼さたぐついて、猿ぁぐぁぐぁぐぁと行ったずま。蛙ばり後さ残って、
「オレぁどうせ食んねから」
 と思って、あきらめて後からペタリペタリと跳ねながら行ったれば、猿の畜生は欲にばり目くらんで、餅ぁ途中抜けたの知らねで、臼さたぐついて行ったごんだと。蛙は、
「ここさ皆落ちっだ。馬鹿畜生ほに、ここさ落ちたも知らねで、空臼さたぐついて行った。オレぁ一人っ子でみな食われる」
 となめてみたが、皆食われるもんでもないし、木の葉っぱいっぱいかぶせて、一生食ったと。
(大橋 川井遠江)
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