19 かわうそと狐(二)

 ある山の中に、かわうそと狐が友達で暮していたったと。あるとき、狐がかわうその家さ遊びに行ったど。
「よく来て呉(く)っじゃ」
 というもんで、大変よろこんで、狐の大好きな雑魚煮っだな一杯出して御馳走したと。狐ぁ喜んで、
「いやうまかった、うまかった。こがえに今頃の雑魚なじょして獲った」
 と言うたら、
「じょうさね(やさしい)もんだ、そんげなこと」
「ほんじゃ、オレにも獲るよう教えて呉(け)ねか」
「教える」
 と大変受けええんだな。
「寒ずる晩に、堤さ行って、尻尾を堤さ入れておくこんだ。尻尾さ雑魚掛ってな、大変とれる」
 という話で、
「誰だって獲(とら)れっから入(い)っでおくこんだ」
 ええこと聞いたつうもんで、狐は、ある晩、大変寒じるこんだど。今夜逃がしてらんね、と思って、どんどん堤さ行って尻尾を入(い)っでだと。尻尾入っでなんぼ掛ったと思って、明日(あした)の朝げまでなど、気ぁもめて、とっても入(い)っでおかんね。そっと引張ってみっど、まだ軽いずも。
「まだ掛んねな」
 夜中になってびんびん寒じて来た。そうすっど、こんどは尻尾凍みついたわけだ。それとも知らね欲たかり狐、雑魚食いたいばりで、そっと引いて、
「こんどは余程(よつぽど)掛ったな」
 といるうちに、寒くてさむくて、耐(こら)え切んねくなったってよ。ほんでも我慢して朝げになるまで入(い)ってだもんだも。そうすっど重たくて引上げらんねぐなった。
「小さな小雑魚は落ちるともよ、大きな雑魚は離んな、エッサッサー、エッサッサー」
 引張って行く気でも、とれねなだな、決して。そのうち堅雪になったもんだから、子供らは堅雪渡りに行ったら見つけたも。ちょろからいう気(き)かず野郎っ子、
「ほら何かあそこにいた。何だべ、狐だ」
「何しったのや、あの畜生、動けねでいたから、歩(あ)いでみろ」
 というもんで、わらわら行った。狐ぁ気ぃもめるもんだから、
「大きい雑魚も小っちゃい雑魚も離れろ」
 と言うても、決して抜けてこないもんだも。そこさ子供ら、もって行った棒でコンコンコン叩いて殺してしまったと。んだから人のまねざするもんでないけと。とうびんと。
(大橋 川井遠江)
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