13 狐退治

 むかし、深沼街道(現高畠町)に萱野がいっぱいあった頃だったど。深沼から大橋さ出る街道に、うんと狐がいて、狐に時々化かされて難渋したと。そのために、お寺さまさ寄って村中の人、なじょかして狐退治する相談したもんだと。
 そんとき、お寺さまさかしこい小僧いて、
「そのことなら、オレにまかせろ」
 と言うのだと。そして小僧は、
「誰かここに集まった人のうちに、丈夫な馬持(も)てた人、一匹貸しておくやい」
 と言うんだと。何すっかと思ったら、次の日、小僧が馬率(ひ)いて深沼街道さ行ったんだと。そして大概(たいがい)萱立(萱を切って苞(つと)にして立てて乾しておく)の側さ行って、
「和尚(おっ)さま、和尚さま」
 と大きい声立てて呼ばったんだと。そしたれば狐ぁ萱立ちのかげの方にいたっけ、― 狐ざ、化けるときカランカランとひっくり返るもんだと ― 二三度ひっくり返ったら、赤い衣着た和尚さまになったんだと。そして出て来たから、小僧は、 「和尚さま、あんまり遅いから迎えに来たのよ」
 と言うたんだと。
「よく来たな、小僧」
「そんじゃ、馬率いて来たから、和尚さま、ひどくいやんべから馬さのっておくやい」
 と馬にのせたんだと。そして綱もって行ったので、ぎりぎり和尚さまどこを結(ゆわ)えつけたんだと。
 そしてそこらまで来たば、
「小僧、落ちねから、そんがえにぎっと結わえんな」
「いや、和尚さま、道わるいから、落ちるとわるいから…」
 と、また途中まで来ると、狐ぁ逃げたいもんだから、じたばたいうげんど、綱で逃げらんねもんだから、とうとう寺までつれてこらっだんだと。そしてお寺さまで、座敷部屋さ入れらっで、村の若衆からいじめらっだんだと。叩かれて、
「これから決して人を化かしたりしない」
 ということの約束させらっで、叩かれたときにびっこになった足ひきずりひきずり逃げて行ったと。そして「びっこ稲荷」になったんだと。

 この昔話は「和尚と小僧」の話から派生したものと考えられ、深沼街道に狐が多いということから、地域の話と結びついたものであろう。同様の話としては「狐に化かされた話」として後述の「化かされたよう平」(金沢)があるが、話としてはこの方がすぐれている。
(大橋 三瓶ちの)
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