9 大歳の火

 大晦日に火種切らさねもんだと、言うたもんだと。そこで、その家で、嫁さ、
「オラ家では、今夜、火種切らさねでおかんなね」
 と言うもんだから、嫁も火種切らさんねどていた内に、眠むたくなって、眠むたくなって、とうとう眠てるひまに、火種なくなってしまって、はっと思って起きて、魂消て、外さ出て、何処か火種あっかと思っていたら、向うにぽかっと、灯り一軒あるというわけだと。
 そして、その家さ行って火種を願ったどこ、
「火種など呉れっから、この菰さ包んだの、死人だけど、背負ってっておくやい」
 と言わっだんだと。その包みはすばらしく重たいのだったと。嫁だから火種なくすなんてさんねし、気味わるくても仕方なく、背負って来て開けてみたら、小判がざくざく入っていたっけと。
 んだから、心持ちがよく家風を守るので小判がさずかったんだと。
(宮原 山崎みやの)
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