50  糖福と米福 

 むかしあったけずも。
 あるところに、米福と糠福という二人娘いだっけど。そしてその糠福というのは初手(しょでん)のおっかの子、米福というのは今のおっかの娘で、そして隔(へだ)てつけらっで育っていたもんだど。
 ある秋ずだな。
「うしろさ、栗なっから拾ってこい」
 て言わっで、その糠福にはボロ袋、米福には新しい袋あずけて栗拾いにやったど。そして行ったらば、姉の方は袋切っでるもんだから、なんぼ本気になって拾っても溜んね。妹の方は新しい袋などは一杯になってはぁ、
「おれぁ、戻んぜはぁ」
 て言って、姉の方は、
「おれはまだ拾わんねし、後から行んから…」
 て、大きな沼あったもんだから、大きな沼どこで泣いっだれば、向うから沼青くなり黒くなりして、向うの方から、蛇体みたいなものぁ、ずっとこっちゃ来て、して、「恐っかない」て逃げっかど思ったれば、蛇、ボロボロ、ボロボロと角(つの)ぁ取っで、きれいなおっかさんになったけど。そして、
「おれ、お前のおっかだから、逃げることぁない」
 て、そしてさまざま話を聞かせて、そしているうちに、その娘に
、 「打出の小槌ていうもの呉れっから、欲しいもの、何ぁ出ろポンポン、何ぁ出ろポンポンて言うど、出っから、これ呉れっから…」
 て言わっで、頭などとかしてもらっているうちに眠ってしまって、そしてぽいと目覚めたれば、おっか居ねもんだから、
「さっきの、夢だべかなぁ」
 て見たれば、その打出の小槌あるもんだから、それでまず、
「袋出ろポンポン、栗入れポンポン」
 て、したれば、美しい袋さ、栗いっぱい入ったど。それ持(たが)って行って、
「いやいや、大変いっぱい拾うて来たことなぁ」
 て。そのうちに村のお祭りあったもんだから、そさ、おっかと妹の方ぁ、
v 「んでは、おらお祭りさ行んから、お前米搗いで、後から流し仕舞って米搗いてそして来い」
 て言わっで、一生懸命で米搗きしったれば、友だちぁ来て、
「一緒に行かねが」
 て言うもんだから、
「おれ、これこれしんなねくて行かんね」
 て言うたれば、
「おらだ助(す)けっから、あえべ」
 て、一生懸命助(す)けでもらって、こんど部屋さ行って、
「赤い衣裳出ろポンポン、下駄出ろポンポン」
 て、いっぱい赤い衣裳からさまざま着たり履いたりして、お祭りさ行ったらば、おっかと妹ぁ、向うの方で見っだけずぁ、
「いやぁ、大変美しい着物きった人来ったもんだした」
 なて、向うの方で姉だということ分んねで見っだけど。して、こんど早く戻って来てはぁ、ボロ衣裳着ていたれば、おっかと妹ぁ来て、
「いやいや、今日、大した美しい着物きた人ぁ来ったけなぁ」
 なて、さっぱり知しゃねで言うけぁ、知しゃねふりしていたけど。そしてそのうちに、その娘、姉の方、糠福欲しいていう仲人来た。
「糠福でなくて、米福だべ」
 て、おっか言うげんども、
「いやいや、糠福欲しいなだ」
 て。そして呉れっことして、そして赤い衣裳から、それこそタンス、長持からみな打出の小槌でいっぱい出して、篭さのってもらって行ったば、妹も、
「おらも何さかのっだい」
 て言うもんで、して、おっか何かさのせて引っぱって行ったれば、拍子わるく種池さ、ズボガしてしまって、そしてはぁ大した難儀して上げて…。ほだからあまり意地の悪れことざぁするもんでないけど。とーびったり。
(大石きみよ)
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