31 蛇聟 

 むかしあったけど。
 地主になぁ、後千刈、前さ千刈、田持ってでよ、それ干魃で毎日の日でりで、田さ口開いて、ほんとに実んねほど田が干(ひ)って困った時、そのじさまが、じじとばばが間に三人の女子(おなごこ)ども持ってで…。
「誰か一人、子ども呉れっから、雨降らせてもらいたい」
 て念じたところだけな。そしたらば、後に大きな沼あって、沼に大蛇がいて、それが聞きつけて、にわかに雨を降らせたけど。そういう風に思いがかなったもんだから、じさまが寝っだどこさ、言うには言うたものの、承知してもらえるんだか、それぁ疑問だべ。娘にな…。「大蛇のおかたになれ」なんてな。じじも屈託してはぁ、大ごとしたもんだと思ってはぁ、そがなことおれは念じて、本当に雨降って来たもんだし、後の沼から、大蛇いて、それに降らせてもらったということは自分で分ってあったんだな。そして朝げに「御飯だ」て起しに行った時、
「おれ、こういうごんで、娘三人持ってだから、どれか一人雨降らせた人に進ぜっから、降らせてもらいたいと念じたれば、こういう雨が降ったんだ。んだからお前誰だ言うたら、後の沼に大蛇が住んでて、そいつが降らせて呉っじゃがら、お前、そいつのおかたになって呉んねか」
 どかて頼んだ。そしたら、
「馬鹿なこと語って、大蛇のおかたになられんめぇちゃえ」
 て言うて、一番大きい姉さが言うたどこだけな。二番目の娘、そして行って起したれば、じさまがそう言うて頼んだげんども、承知しないどこだけど。そして三番目の娘が行って同じこと語って、じさまが頼んだれば、
「そがなことで、おれは親のことでもあるし、あまりええどこでないから、おらの望みも聞いて呉ろ」
 て言うごんだけど。
「どんなごんだか、おれぁ出る限りのことすっから、お前、大蛇のおかたになって行って呉ろ」
 て言うたら、
「そがなめんどうなことでないから、針を千本買って呉ろ、針を千本とフクベン千買って呉ろ」
 て。「そんなことはそうだげんど」て、じさまもあちこち探して、求めたわけだど。そして求めて、
「何、タンスもいらね、何にもいらね、着物もいらね」
 て、それを求めて呉っじゃどこだけな。そしてその自分の望みのもの求めてもらったもんだから、嘘いつわりですまねもんだから、そこさ行ったわけだ。沼さ、青々という沼さな。その娘も度胸ええごでな。そして行ったら、向うの岸から神楽のような頭の大蛇出はってきたわけだ。そしてこういうわけだって、次第を話したら、
「よく来て呉っじゃ」
 て、して、
「おれぁお前のおかたになっから、おれの言うのも聞いてもらいたいから…」
 て言うごんで、沼さフクベン千と針千本、浮かしたわけだ。そうすっど、ガホガホと手でかき廻すじど、身成(なり)内さ針が刺さる。
「このフクベン沈ませて呉(く)ろ」
 て、娘頼んだわけだ。そうすっどやっぱりフクベン沈ませっだいから、手でかき廻すじど、針浮かしたもんだから、針、身成(なり)さ刺さったわけだ。千本の針だから、大蛇だったて、身成(なり)内さ刺されば弱るわけだ。そこぁ賢いとこで、肝要なことだごで。むかしとーびったり。
(後藤とよ)
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