29 猿聟 

 むかし、あるところに、じいさんがばあさんといで、山さじいさんは火野(かの)うないに行ってな、そして一人言語ったど。年寄りでこわいから、
「この火野(かの)うなって呉っじゃ人あったら、娘三人持ったから、どれか一人呉れる」
 て言うたどな。そしたら、
「おれうなって呉れっから、ほんじゃ娘呉ろ」
 て、山から若い男降(お)ちて来て、そうすっど、
「ほんじゃ、うなってもらうか」
 て、うなってもらったそうだ。そしたらこんどぁ、家さ帰って来て考えてみたげんども、三人の娘で、山さ嫁さ行くのぁ、いないごんだどな。そしてはぁ、思案して朝に起きんなねげんどな、そしたら、
「昨日、あまり暑い時、火野うないに行って、頭痛くて」
 て、御飯食べらんねから起きながったど。
「おれの言うこと聞いて呉れっか」
「何でも何でも聞っから語って呉ろ」
 て言って、語ったそうだ。そしたら、
「おれぁ、昨日あまりこわいから、その火野うなって呉っじゃ人あったら、娘三人もったから、一人呉れるて言うた。そしたら、『おれうなって呉れっから、その娘呉ろ』て言わっで、呉れることにした、おまえ山さ嫁に行ってもらわんねが」
「いい。このじっちゃ、そがなもんだらば、鬼だか蛇だか分んねがんべ、そがなどこさ嫁に行かんね」
 て、一番娘に逃げらっじゃごんだど。こんど二番の娘、
「じいちゃん、じいちゃん、起きて御飯あがれ」
「御飯食(く)たくないげんども、おれ言うこと聞いて呉れっか」
「何だか語ってみろ」
語ったら、
「昨日、あまり暑いとき、火野うないしったから、『この火野うなって呉っじゃ人あったら、娘三人持った一人呉れる』て言うたら、『おれうなって呉れっから』て、山から若い男降りてきて、一ぺんにうなって呉っじゃ。お前行ってもらわんねが、嫁に」
 て言うたら、
「そがえなもの、何だか、山から来る者など分んねがら、おれはぁ、行かんねがら…」
て言うて、これもやめてもどって来らっだど。こんど三番目の小さい娘、
「じっちゃ、じっちゃ、起きて御飯あがれ」
 て言うたら、
「御飯も食いたいげんども、お前、おれ言うこと聞いて呉れっか」
「なんでもええから、じっちゃの言うことなど、何でも聞くから教えて呉ろ」
て言うたそうだ。ちゃんと。そうすっど、
「おれ、あまり、昨日、火野うないに行って、暑くてこわくて、休んでいたれば『この火野うなって呉っじゃ人あったら、娘三人もった一人呉れる』て言うた。そしたら山から若い男降ちて来てはぁ、『ほんじゃ、おれ、うなって呉れっからおれに呉れろ』て呉れてやる分にして来た。お前行ってもらわんねが」
 て言うたど。そしたら、
「ええどこでない、どさかしら嫁に行かんなねから、じっちゃの言うごんだも、ええどこでない」
 て、小さい娘ぁ引受けたど。そして、
「明日来ることに約束してきたから、明日来るから」
 そして待ちっだら降りて来たそうだ。山から、
「じっちゃ、じっちゃ、おれと昨日相談したな、どの娘だ」
 て。そしたら、
「この娘だから、連れでって、めんどうして呉(く)ろ」
 て、こう言うて、そして娘も、
「ええどこでない」
 て、着物を着換えて山さ行ったど。そして行って、まず暮していると、春になって、こんどはお節供だかな、三月だかになって、
「里さ、里帰りに行んから、何お土産背負ったらええがんべ」
 そうすっど、
「餅、おらえのじっちゃ、餅好きな人だから餅だらええがんべ」
「ほんじゃ、餅搗いて、重箱さ入っで…」
「重箱など入っで…おらえのじいちゃ、重箱嫌い、ウルシ嫌いな人で、重箱くさいて上(あ)がやんねから…」
「ほんじゃ、鍋で背負うか」
 て言うたそうだ。
「いや、鍋など背負ったて、鍋くさいて上がやんね人だから…」
「ほんじゃ、おれ、臼背負って行ぐ」
て、そして、
「臼だらはぁ、搗いたもんだべし、よかんべ」
 こんど臼背負うことになった。そしたら臼背負って出かけて、山から下がってそして山の道をずうっと下がって来るうちに、こう大きな川あって、川さこう下がって、桜の花咲いでた。
「いやいや、あの花の美しいことなぁ、あれなど取ってって見せたら、なんぼおらえのじっちゃ喜ぶか」
 て言うたそうだ。そうすっど、
「あまりええ、ほんじゃおれ、押折(おしょ)ってくる。ここさ臼降ろして…」
「いやいや、臼土さ降ろしたら、土くさくなって上(あ)がやんねから、臼はぁ降ろしてもらわんね」
 て言うたらば、
「んじゃらば、臼背負って上がる」
 て、背負って上がったそうだ。そうすっど、「この枝ええか」て言うたば、
「その枝は花好(この)ましいげんど、もう少し裏の方に、好ましい花咲いっだから、それだらええがんべ」
 て。そうすっど、臼背負って、こう手伸べたわけだ。そうすっど桜はやっぱりサコイ木で、ポツンと折れたど。そうすっどはぁ、臼からみまぐっで行ったど。そしたらその下の川さ落ちたど。そしてはぁ、川から臼背負ったまんま、ズボコズボコ流っで行ったど。そうすっど、
「いやいや、早く上がってござれ、綱もないんだし…」
 て、娘はうんと騒いだげんど、何も探(た)ねつけらんね、そのうちにはぁ、ズボコズボコと流っで、そんどき唄詠んだど。
    猿川に流るる生命はおしまねど
      あったる娘後家にするらん
 という唄詠んだど。そしたらはぁ、娘も仕様ないから、こんど家さ帰って来たわけだ。
「いやいや、戻って来たことか」
 て、家内の衆はみな喜んで、
「桜の花をお土産に取ってくっかと思って、取ってもらうべと思ったら、木が折れてはぁ、川さ流っでしまったから、帰って来たどこだはぁ」
 て、一人で帰って来たど。んだからやっぱり賢こい人には敵わねて、むかしから言うたもんだと。とーびったり。
(男鹿てつの)
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