28 文福茶釜 

 あるところに、骨董屋さんいだっけど。そして、骨董屋さんが遅く帰って来っときに、野原来っどき、狐がいた。
「狐、狐、なにか珍らしいものに化けらんねが」
 そしたら、狐、
「化けられる」
「あそこの寺の和尚さまは古いもの好きだから、何か茶釜の古いものに化けらんねか」
「化けられる」
 そして狐は陰さ行って、化けて来たら、南部釜の古いなに化けて来たそうだ。そうすっど、そいつ持(たが)って、骨董屋さんが寺さ行って、
「和尚さん、和尚さん、まず古いものの珍らしいもの見つけて来たから、これ買ってもらいたい」
 て、出したそうだ。そうすっど和尚さんは、
「なるほど、これ、珍らしい釜だから、ほんじゃ買ってやる。格好もいいし、買ってやる」
 そうすっど、和尚さんどさ売って、そして骨董屋さんは帰って来たど。家さ。そうすっど和尚さま、
「小僧、小僧、釜砥ぎできれいに洗ってこい、お茶を立てて飲むから…」
 そうすっど、「はい」て小僧流しさ行って一生懸命でこすったそうだ。タワシで、そしたら、
「小僧、小僧、そっと砥げ小僧」
 とかて、
「痛いから、そっと砥げ小僧」
 そうすっど、
「和尚さま、和尚さま、この釜、何だか音立てる」
「金(かね)のええ釜だから、タワシ当てれば、音ぁするごて」
 て、和尚さまは勝手にいて来なかったど。そしたら、また小僧ぁまず一生懸命でタワシでこすった。
「小僧、小僧、痛いから、そっと砥げ小僧、そっと砥げ小僧」
 て言う。
「『そっと砥げ小僧』って言うぜ」
「茶釜喋っことないから、タワシの金でも当ったごで」
 て、和尚さま言うたど。そしてまず水をついで来て、掛けたそうだ。そうしたら、段々に炭おきて、お湯チンチン沸いて来る。熱くなったから、こんど窓破って行ったそうだ。そうすっど和尚さま怒って、― 和田文兵衛という人であったとな、その骨董屋は ― そこの骨董屋さ行って、
「いやいや、お前から買った釜は狐が化けたなであった。狐になって窓破って出て行った」
 そうすっど、骨董屋は膝かぶさ、コウヤクを大きく貼って、小豆の水をとって中さ何(な)じょか仕掛けて、そして、
「いやいや、おれではない。おれではない。腫れものぁ出て、この間はどこさも出来ないんだ。この通りで腫れて、この通りだ」
 て見せたそうだ。そしてまず、
「うんでウミも出るようになった。おれでは決してない、やっぱり狐と狐の仕業だべ」
 こう言うたごんだど。そして和尚さんも仕様なくて、帰って来たどな。そしたらこんどまず和尚さん負けたなてはぁ。骨董屋にお金ばり取らっじゃごではぁ。
 それからまた、こんど狐のいた野原さ行ってみたら、狐の穴あったど。そこさ狐の小さいな、いっぱい遊んでいた。
「狐、狐、おれぁお土産買って来たから、饅頭買ってきたから、食え」
 そして、狐もらって喜んで食べっどすっど、中で親狐ぁ、
「お前がた、和田文兵衛の買ってきた饅頭など、石でも拾って来たか、土でも丸めて来たか分んねから、決して食べんな」
 て、中でおっか狐教えたど。
「いやいや、決して、今日のなわ、あやしいもんでないから、食べられる饅頭だから」
 て、そしてまず、饅頭を食わせて、そのうちにまず、また中から親狐ぁ出はって来たど……。
(男鹿てつの)
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