20 越後の魚屋-牛方と山姥- 

 むかし越後からきた魚屋、やっぱり道に迷ったど。そして行ってみたところが、暗くなって、小さい小屋があったから、まず、灯りをたよって行って、「泊めてもらいたい」て言うたら、
「越後から来た魚屋だげんども、道に迷って帰るようないから、泊めてもらいたい」  て言うたら、
「おれは山に住んでいる婆さまだげんども、よからば泊れ」
 て言わっで、やっぱり戸などないから、菰(こも)下げていたどこ開けてみたら、白髪なばさまであったそうだ。そして、
「おれは一人ものだげんども、よからば泊れ」
 て。魚屋も恐っかないもんだから、逃げる気持になったごんだな。そうすっど、
「魚屋のごんでは、魚一匹呉ろ」
 そして恐っかなくて、魚屋、投(ふ)ってやってな。逃げたど。そうすっど、
「一匹ばりもらったって、片方の頬(ほ)ったぶしかうまくないから、こっちの頬(ほ)ったぶ、うまくするように欲しい」
 て、ばさまに言わっで、いま一匹投げてはぁ、わらわら逃げてきたど。そしてきて、そんでも追付かれそうになって、こういう大きな川あっどこに木あって、その木の上さあがって、そしてばさま上がらんねがったど。川から石を拾ってきて、ずっと石を積んで、そして高くして、魚屋さ手突出(つだ)したど。そうすっど魚屋恐っかないもんだから、木ゆさゆさ揺(ゆす)ったど。そうすっど石ぁくすっで、わらわらと川の中さ入ってしまったど。そしたら川の中さ入って石の下になって、その化物は死んだわけだべ。そうすっど荒い魚屋であったべ、その小屋さもどったもんだずも。 「そかなものいたどこだらば、何か宝物あんべ」
 て、その小屋探したそうだ。そうしたら、お金からさまざまあったそうだな。そしてそれ持って帰ってきたど。ああいうものと賢こいものには、かなわね。とーびったり。
(男鹿てつの)
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