19 鯖売りサブ-牛方と山姥- 

 新潟から、サブていう魚(いさば)屋、魚いっぱい背負ってきて、そして峠さ行ったれば、ガサガサ、ガサガサて化物出はって来たど。
「魚屋、魚屋、魚呉んねぇか」
 て言うごんだな。そして、
「取って食うぞ」
 なて言うので、「ホラ」てぶん投(な)げてはぁ、一生懸命走って行くの、また追掛けて、「魚屋、魚呉ろ」て言うもんだから、「ほら」て言うて、一生懸命行くじど、また追かけて来たもんだから、箱がらみ呉っではぁ、わらわら逃げたげんど、追っついで来たんだし、仕様ないから、こんど高い川端の木の高いどさ登って見っだら、「取って食うぞ」て追っかけて来たもんだどな。そしてはぁ、仕様ないんだから、魚屋、はね落ちて、化物も川さ飛び落っだど。そうしてずうっと魚屋先に行って、向うの方に灯あるもんだから、そこさ行って、
「今夜、泊めて呉(く)んねぇか」
 て言うたげんども、誰もいねもんだから、大天井さあがっていたようだけな。そしたれば化物が来て、
「いやいや、今日は馬鹿な目に合った。ほんじゃまず、火でも焚いで酒でもオカンして飲むべ」
 て、そうして酒のオカンしたらば、天井から、その魚屋、葭(よし)の棒出して、ツツウと飲んで、したらば化物、目覚まして、
「いやいや、火の神さま飲んだ、ほんでは餅でも焙って食(か)んなね、こりゃ」
 どて、そして餅焙りして、また背中焙ったもんだから、魚屋、また葭棒でみな二階の上さ持(たが)き上げ、餅食って、
「いやいや、こりゃ、みな火の神さまに食(か)っじゃもんだ。寝んべ。どこさ寝たらええんだが、二階さ寝たらええんだか」
 て言うもんだから、魚屋、二階さ来られっど悪(わ)れから、チチ、チチて何か音立てらせだば、二階さ行くんだら、梯子さ火でも点(つ)いたんだか、行かんねから、 「唐戸さでも寝んべ」
 て、唐戸さ寝た音すっから、そおっと降っできて、唐戸さ外から錠かけて、そしてお湯をどんどん、どんどんと沸かして、その唐戸さ、キリキリ、キリキリとキリで孔あけて、
「なんだ、今夜、キリギリスぁ鳴くな」
 なて、中で音ぁすっけずけ、そしてそこ、じゃあじゃあとお湯かけて、殺したもんだけど。
 そして次の日開けてみたらば、大した大きなムジナ死んでだけど。ムジナも年取っど化けるもんだど。とーびったり。
(大石きみよ)
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