17 越後のいばさ売り-牛方と山姥- 

 魚(いさば)売りが来て、小国さ越える峠ある。小国の方から入ってきて、峠を越えて中津川さ入ってきて、途中で鬼婆に掛からっだど。そして持って来た魚を投げてやって、魚あるうちぁムシャムシャいっけんども、そいつ食い上げっどまた追いかけてきて、また来て皆食ってしまってなくなった。そして逃げてきて、そんでも追って来るもんだから、川端の柳の木さ這い上って、木の細いところまで登って陰っでだなに、鬼婆は木さ登って来っど、うしろから、「いさばや待て」て言うもんで、なんぼも追いつめらっで、ばば登って来て、おさえらっでしまったもんだから、ぺこっとしなっど、柳の木だから、ポクンと折れて川の中さ落ちてしまったど。
 そうすっど、「ひどいいさばやだ」ていうもんで、着物ひきずりひきずり逃げて行ったど。いさばやも川さ流っだな、やっと這い上って、腹も空(す)きたし、家ば尋ねて行ったば、鬼婆の家だったど。鬼婆の娘ぁいた、そいつに隠してもらったど。
 鬼婆は、「寒い寒い」て、「酒飲まねど分んねから、姫、酒出せ」なて鬼婆、酒飲んで、「餅焙れ」なて、餅焙って食って、酒飲んで酔えではぁ、餅も腹いっぱい食って、
「姫、おれぁ眠る、はて、今夜は石の唐戸さ入った方がええか、木の唐戸さ入った方がええか」
 なて。娘は、
「石の唐戸よりは木の唐戸ええんだ、ばんさ」
 て、木の唐戸さ入って眠た。そしたら雷みたいなイビキかいて、木の唐戸で眠た。そさ、いさばや、こんど出はってきて、いさばや、娘に御馳走になってええぐなって、
「ばば、ひどいばばだから、お湯かけて煮殺してやっから、お湯沸かせ」
 て言うもんで、お湯を沸かさせて、木の唐戸だから、キリで孔あけてはぁ、そっからお湯つぎ込んでやってはぁ、つい鬼婆殺して、そして姫をおかたにしてはぁ、帰りに成功したけど。どーびん。
(男鹿 秀)
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