8 猿と蛙の寄合餅

 ここのようなとこに、蛙(びっき)と猿ぁいたけど。そして猿ぁ空のええどき、
「蛙もさ、蛙もさ、何としてやった」「何もしてない」
「今日は空はええし、おらええこと味付けたから、相談に来たどこだ」
「何でござる」
「文右ヱ門であした秋振舞いすっじから、秋振舞いで餅搗くていうから、そんどき、おぼこぁいっぱいいたから、蛙ぁ清水の中さ入ってはぁ、赤子の真似して、おぼこの真似して泣く」
 て。
「そうすっど、おれぁそん時、家の人ぁ大騒ぎして、それぁおぼこぁ清水さ落ちたなて、みな出はって行んから、そん時、臼がらみ背負って、猿の稲場さ上っていって、餅撒きすっから拾い勝ちし申すべ」
 て言うたど。
「それぁええことだ」
 て、そうして相談して、次の日、文右ヱ門では秋振舞いで人招んで、餅搗き始めたど。そして餅ぁ練れた頃になったど。行ってはぁその下の清水さ入って、オギャオギャ、オギャオギャって、おぼこの真似する。そうすっど。
「おらえに、かあちゃ、おぼこがいる。早く、おぼこぁ落ちてる。清水さ落ちたから、早く上げて呉んなね」
 て、みな出はって行くどはぁ、女衆も何もみな魂消て出はって行ぐど、そん時そこ戸開けておくんだから、臼背負ってはぁ、うしろ山さ、ホイホイて上がって行ったど。そしてはぁ、高いどこから、蛙(びっき)はのろいんだから、ピタンピタンと行って、そん時、猿ぁ、
「蛙もさ、蛙もさ、ここから転ばしてやっから、拾い勝、し申すべ」
て、
「おれぁ、のろいから、ほに、みな、御身(おみ)は早いんだし、おれぁのろいから、そんなことしないで、分けて食ねが」
て言うけずぁ、
「ええから、拾い勝ちすっから」
 て言うもんで、高い山から臼ぁコロンコロン、コロンコロンとまくしてやった。ホイホイ、ホイホイなて、猿ぁ臼の中さ喰付いて降っで来る。蛙はピタンピタンと来ているうちに、餅あって、ツツジかぶって、そこさ餅みな引掛って、猿の食うのは臼さ、ちいと喰付いっだきりだったど。そうすっど、猿は途中で落ちてしまったんだから、ホイホイて上がって来て、
「蛙もさ、蛙もさ、ええごんなんだ。そがえに餅ある、ちいと呉っでくろ」
「おれぁ、のろくてやっとここまできて、食(く)てだし、御身ぁ臼と一つに行ったもの、なんぼかたくさん食って来たべから、呉れらんね」
 て言うたら、
「そんなこと言ねで、ちいと呉っでくろ」
「呉れらんね」
 て言うたら、「ちいと呉ろ、ちいと呉ろ」て言うど、蛙は餅の中の熱いどこ、したぎって、「それ」て言うど、猿の顔面(つら)さぶっつけたど。そうすっど、顔面うち火傷(やけばた)して、「アチアチ」て言うど、餅ぶっつけらっで、猿の顔面ざぁ焼けて真赤になったんだど。むかしとーびったり。
(山口すえの)
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