82 南の山の馬鹿聟・手水を廻せ

(南の山て、むかし馬鹿の出たどこだ、そのあたりは家なて作るようも知しゃねから、木と木合わせて、そして木の葉で屋根葺いて、そこに暮していたそうだ)

 むかしの殿さまの時代だな、その人ぁ、南の山というどこあっずから、視察に行ったそうだ。そして、
「尊い人、ござったから…」
 て、みな部落の衆集まって、そうして大したお料理の御馳走出たど。そしてまずいっぱい集まって、
「お殿さま、何一番好きでござったった」
 て聞かっだ。そしたら、その、
「どじょうさ、背負い牛蒡(ごんぼ)ぁ悪くないもんだ」
 て。そうすっど、みな集まってはぁ、村内の衆、お料理はじめたど。どじょうとってきて、牛蒡を長く削って、どじょうさ、一匹一匹さ、みな牛蒡背負わせて結付けたど。そして御馳走になってくる。
 そしてこんどは、朝には、
「チョウズを廻せ」
 どかて言うたど。そうすっど殿さまの休んでいた座敷の戸を開けて、みな顔出して、こうして首廻したど。やっぱりそういうどこもあったそうだという話だな。とーびったり。
(男鹿てつの)
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