76 団扇太鼓

 神さまさ、唯いて食れるようにて、一生懸命拝んだれば、神さま団扇太鼓というもの呉っじゃ。そしてこんどそいつで「ポンポン、ポンポン」と叩くとなじょなもんでも出っこんだな。そしてある日お祭りさ行ったれば、きれいだにもきれいだにも、どこのかお姫さまではあっべども、
「あの人の鼻高くしてみっかな」
 て、「鼻高くなれ、ポンポン、鼻高くなれポンポン」と叩いたら、いやその鼻の伸びっこと伸びっこと、ぐんぐんぐんぐんと伸びてはぁ、そのお姫さま、とっても恥かしくていらんねで家さ戻ったけど。そして家さ行って泣いっだごんだけなぁ、あまり鼻高く伸ばさっだもんだから、そしたらば、
「鼻低くされる、鼻低くされる」
 て、そこらふれたらば、そこの家で、
「「そんでぁ、あの、雇ってけんべ」
 て雇って、毎日「鼻低くなれ」ていうもんで、ちんちんと低くして呉っじゃど。そうして毎日酒を御馳走になって、うまいもの御馳走になって、毎日、ちんちんと鼻低くしてもらって、御馳走食って楽しったんだごで。そして鼻も普通になったもんだから、こんどそっから出はって、自分の鼻高くしてみっかなどて、
「鼻高くなれ、鼻高くなれ」
 て、その団扇太鼓叩いたら、いやその鼻の伸びっこと伸びっこと、匂いのええどっから臭いどっから、ずうっと鼻伸びて行ったごんだけな。そうすっど子どもら、
「なえなもんだか、面白いものある」
 て、いや寄ってたがって、喰付くぁかっちゃくぁ、叩くがしてはぁ、大した大あやまちしてはぁ。んだから唯いて食うべなんと思わねもんだど。とーびったり。
(大石きみよ)
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