74 和尚と小僧・小僧殺し

 むかし、ある寺に賢こいお小僧さんが三人いでやったそうだ。和尚さんは寺だから、生臭食んねもんだからな。数の子味噌を拵って、そうしてカメさしまって和尚さまばりなめていたど。小僧になめさせねがったど。
「これは、和尚さま、和尚さま、いつでも何か珍らしいもの舐めてやっから、何ずうもんだ」
 て聞いたそうだ。そしたら、
「これは大人の食べるもんで、小僧食べっずど、小僧殺しというて、食べらんねもんだ」
 て教えらっだど。そうすっど、小僧さんがたは三人そろってみな食べたくて仕様ないな、子どもだからな。
 和尚さんはお法事でも招ばっで行ったがな、留守な時、
「三人で座敷掃除して、座敷掃除してから、お経あげろ」
 て、座敷掃除しったずも。そうすっど和尚さま大切にしった植木鉢を落してこわしてしまったど。
「いやいや、困ったことした。和尚さま帰って来たら、こら、なんぼおんつぁれっか知んねなぁ」
 て、まず三人で思案していた。そしたば、だんだんに考えて、
「いやいや、おれええこと味付けた。和尚さま、小僧殺しという薬を舐めでっから、そいつ舐めで、おらだ死ぬことにしたらええがんべ」
 て、賢こい小僧さんが…。「それ、ええがんべ」て、カメを出して舐めてみたら、
うまくて、みな舐めてしまったど。
「さぁ、これぁ困ったことした、和尚さま来たら、これも鉢と同じにおんつぁれる」  それから、座敷さ行って、こんど味噌のカメから、そっと味噌とって、お釈迦さまの口さ塗ったど。そしたら、
「お釈迦さま、叩けばカーンて言うから、そうすっど、お釈迦さま食ったでないわけになるから…」
「ええから」
 て、お釈迦さまの口のぐるりさ塗って来たど。そして休んでいたれば、和尚さま帰って来て、
「なんだお前がた、おれの一番大切にしった植木鉢こわしたでないか」
「和尚さま、座敷掃除しろって言わっだから、掃除すっどき落してこわしてしまった。珍らしいもんだで、三人で、あっちゃ行き、こっちゃ行きして見た。そうすっど取落として手落したから…」
 和尚さま、こんど数の子味噌なめっかと思って行ってみたら、数の子味噌、カメにさっぱりなかったそうだ。
「なんだ、小僧、お前から、おれの拵ってだ薬を舐めたでないか」
「いや舐めねっし」
「いや、舐めた。さっぱりなくなったから、どっからか来て、舐めであんめぇから、お前がたに相違ない」
「なんだか、ほになぁ、お経あげった時に、仏壇の方からミチミチて何か騒ぐような音しったけぁ、お釈迦さま来て、舐めて行ったでないかな」
 て言うたど。そうすっど和尚さんは座敷さ行って、
「いやいや、和尚さま和尚さま、口のぐるりに味噌いっぱい喰付いっだ。ほんじぇ、これお釈迦さま舐めた」
 そうすっど和尚さま行って、こんどぁ、せめたて、金(かね)だから仕様ないから、て言うど小僧は、「叩いたら、白状すっかしんね」て、木魚の棒で叩いたど。「カーン」となったど。和尚さまは、「なんで小僧、こりゃ、お釈迦さまはカーンて言うたぜ、食べたでない」。また叩いてみたら「カーン」て言うたって。「三度も叩いたげんども食ったて言わねぜ」。そうすっど、
「んだな、叩いたんでは痛くない。金(かね)だから痛くないから、ほんじゃ大きな鍋さ入っで煮た方ええがんべ。茹でれば熱いから…」
 そうすっど大きな鍋さ火を焚いて、まず入っで、金(かね)のお釈迦さまを入っで茹でたど。そうすっど、水だから、煮だって来たわけだ。
「クッタクッタ、クッタクッタ」
「ほら、和尚さま、お釈迦さま食ったて言う、熱いもんだから白状したでないか」
 て、これも小僧に負けたけど。賢こい小僧にはかなわね。
(男鹿てつの)
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