68 見るなの座敷

 道に迷って行って、泊めてもらって、
「決して見ないで呉ろ」
 て、ええ姉さまが、「毎日、おまえが留守居してで呉ろ」て言わっで、その、馬さのって、トット、トットと。…美人だったてな、その美人が、
「決して、この座敷の、一番入(い)りは見ないで呉ろ」
 て、言うどこだけな。そして毎日、二十一日、女が馬上の女になって、八幡詣りに行く。その留守してるとき、その座敷、「見んな」て言われればいっそ見たくなる。
その二十一日、戸ガランと開けて、パチンと閉(た)てて、見たらカメある。カメコさ何入ってだかなぁて、開けて見たら、甘酒のなりもじりみたいによ、プクプク、プクプクてよ、鳴っていたなあったど。
「こげなもの、酒のこじれか、甘酒のこじれだべなぁ」
 ていだったら、その女ぁ帰ってきて、しおしおとして帰ってきた。
「いやいや、おまえに座敷は見ないで呉(く)ろて、あのように頼んだげども、見らっでしまった。実はおれは決して人間でない、鶯の化身であった」
 て。
「二十一日、願かけて今日が満願で、今日一日、あなたに見ててもらわなければ人間になられるのを、人間になりかねたもんだ。あまりにも残念であった。ホーホケキョ、ホーホケキョ」
 てはぁ、行ってしまわって、そして見たら山の奥で、林の中で、どさ行ったらええか分んねではぁ、大変難儀して、その人は困ったけど。とーびったり。
(山口ふみ)
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