57 なら梨とり

 むかしあったけど。
「行(い)け山というとこさ、梨の木ぁあって、梨なってる。そこさ行って梨捩いでもらって、そして食いたい」
 て、おっかさだごでな。
「ほんじゃ、おれ捩いでくる」
 て、太郎が出かけて行ったそうだ。そして段々行ったらば、和尚さまに行き会ったじだな。そしたら、
「どこさ行く」
「行け山さ梨もぎに行く」
「これから行くじど滝あるから、そさ行って行けざんざんて言うたら行けばええし、行くなざんざんて言うときは行くな」
 て言わっだ。そして段々登って行ったら、やっぱり大きな梨の木あったそうだ。その梨の木さ行って捩いで、袋さいっぱい捩いで帰って来んべと思ったら、暗くなってしまったど。そしてはぁ、帰ることも出ないんだし、梨の木の下さ寝て休んでいたら、山から何か降ちてきて、そして太郎を丸飲みしてしまった。ストンと。そうすっどまた家では案じて、
「兄さんが帰って来ない、ほんじゃ次郎、迎えに行く」
 て、次郎はこんど登って行ったそうだ。そしたら、次郎もまた和尚さまに行き会った。
「こっから行くじど、滝があるから、そさ行って、こうして耳当てて聞いてると行けざんざんて言うたら行けばええし、戻れざんざんて言うたら戻ったほうがええ」
 て言わっじゃげんども、
「なえだて、ここまで来たもの、梨食(く)たいていうもの、行ってみんべ」
 て、戻れて言われたげんども、行ったど。そして行ってみたら、これも暗くなってはぁ、梨の木の下で野宿。そうしたらまた山から何か降ちてきて、
デッツクバッカ スッカッカ
バンゲノチャノコ メッケダ
 て、さえずりさえずり山から降ちてきて、そしてまた自分の傍さ来てはぁ、自分をストンと呑んでしまったど。そしてはぁ、呑まっじゃ。こんど三郎は、
「なえだて、兄さんたち来ないから、何かあんべし」
 こんど次の日、朝に早く出かけて行ったれば、また和尚さまに行き会った。
「おまえは、どこさござる」
「行け山さ、かぁちゃんが梨食(く)たいて言うから、梨もぎに行くどこだ」
「ほんじゃ、これから行くと滝あっから、行けざんざん、行けざんざんて言うたら行けばええし、そして戻れざんざん、戻れざんざんて言うたら戻った方がええ」
 て教えらっじゃ。そうしたれば、『行けざんざん、行けざんざん』て、滝言うた。
そうすっど、三郎はこんどまた和尚さまに行き会った。
「お前、どさござる」
「行け山さ、梨もぎに行くどこだ」
「これから行くじど、大きな石があるから、その石を押してみて、まぐっで落ちたら行けばええ。動かなかったら、行かんねぞ」
 て教えらっだ。そして行ってみたら、やっぱり大きな石あったそうだ。そいつ押してみたら、その石ぁコロコロと転んで行った。下さ。ほんじゃと思ってまた登って、そして行ってみたら、やっぱり梨ぁたんと実っていたど。そいつをもいで、そして袋さ入っで、そうしているうちにはぁ、また日ぁ暮れて、夜明していると、また山から化物ぁ降っできて、やっぱり、
デッツクバッカ スッカッカ
バンゲノチャノコ メッケダ
 て語って降っできた。そして化物来っど、こんどは化物と、三郎じゃ荒(あら)くて、相撲とりして、そして化物負けたど。下になって。
「生命ばかり助けて呉ろ、おれ、これから悪いことしないから、生命ばり助けて呉(く)ろ」
 て。
「そんじゃら、今まで呑んだ兄さんたちを、ここさ吐き出せ」
 て言うたら、まだ溶けながったがして、二人の兄さんたちを吐いて出してしまったって。そして三人でいろいろ御飯など持って行ったのを食べたりして、そして達者になって、家さ三人で戻って来たけど。あらい者じだか、賢こい者じだかには、かなわねど。とーびったり。
(男鹿てつの)
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