大仏の板碑

 何百年か大昔、一人の六部が吹雪に行き暮れて息も絶えだえ、凍死せんばかり、
大仏の住家に一夜の宿を求めた。家人は茄子火をたき、そばから湯で体を温めた
り、親身も及ばぬ情愛の看護により六部はようやく蘇生した。後しばらく滞在し
たが、身分の高い六部とあって、付近の民家を教化し、やがてそこを去った。
 後何年かして六部が再び大仏を訪れたが、その時にはもう彼の家人は此の世の
人ではなかった。六部は為に、一塔を建立し、その霊を供養したという。
 又伝える所の裏話は、大仏の祖先が伊勢参宮の帰り道、宇都宮辺の宿屋で一人
の六部に出会った。その六部の語るに「出羽国三山詣での行脚の際、大仏辺で吹
雪に行き暮れ凍死すべき所をかくかく待遇を受け救われたと得々と吹聴した。何
を感じたか先祖の方は大急ぎで帰宅するや、大徳利を家人に突出し、これに二本
分の酒を買ってこいと命じた。家人はそのまま帰らずこの世に無かった。後伝え
聞いた六部は、為に一塔を建立してその霊を供養したという。 (大仏手塚久右衛門氏墓)
>>むかしあったけど 目次へ