佐兵ばなし

 むかしあったけずまなぁ。
 あっちの御領、和田の方に、佐兵という人だったけど。そうしてこの人は、頭
ええくてなぁ、まいどこっちのおら方(ほう)のお殿さまの方で、何かえ、物ないもんだ
から、佐兵ていうな、面白いこと語って、銭とりなどしたんだど。
 そうしてある日のこと、車さ小便桶、新しい桶さ、小便いっぱいつめで、ほう
して引張って来たど。ほしたば、関所のどこまで来たば、お役人さま、
「こらこら、佐兵、にさ、何持って来た」
「小便だっす」
「また嘘ばり語って、この野郎、何かで銭もうけするつもりだな、こりゃ」
「ほんね、お役人さま、本当に小便だぜっす、こいつなの」
 ほうしたば、お役人、こりゃおかしいと思って、
「佐兵、そこよけろ、おれ調べてみる」
 佐兵は、
「いや、ほんねず、お役人さま、そいつなの小便だから、ほげなすねでおくやい」
 て言うたど。ほうして言うたば、お役人はコンコンなて、ダンボ抜いてみたら
ば、本当に小便だったど。
「ほりゃ見ろ、お役人さま、おれ嘘語んめぇちゃえ」
 そしてずうっと引っぱって行ったど。そしてはぁ、その小便など投げで、また
カランコロンて引っぱって来たど。そうしてまた次の日、また小便桶新しいな引っ
ぱって、
「どうか通しておくやい」
「どさ行ぐ」
「米沢の城下さ行ぐっし」
「また何つけてきた」
「酒だっし、こんどは酒つめてきたどこだっし」
 て言うた。したば、お役人さま、
「また、この野郎、人のどこ嘘語ってダマカス気だな。ズフタレばり語って、こ
の野郎」
 て言うたど。ほうしたれば、
「ほんねず、本当だず、酒だっす」
 て言うげんども、お役人さま、
「ズフタレ野郎、にさ、見ねったてええから、行げ」
て言わっじゃど。佐兵、うれしがって、
「お役人さま、おれにだまっさっじゃも知しゃねで……」
 ほうして、はいつ城下さ持って行って銭もうけしたど。佐兵なんていう野郎、
そんげなもんで、そげなことばかりして、頭のええ野郎だったなぁ。ありゃぁ。
どーびんと。
(佐藤七右衛門)
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