35 毘沙門天と味噌

 糀屋さんでは、味噌が酸(す)っかくなったときには、毘沙門さまに味噌上げるもん だ。餅の上に味噌を上げて毘沙門さまに供える。
 蛇のこけらを焼いて毘沙門さまに病気平癒を拝むと、薬を紙に包んでお礼と一 緒にもらう。その薬は腹の中に長虫がいた病気だと効くという。またお灯明を点 けて拝むとき、そのローソクのタレが蛇のこけらのようになって下に落ちるとも いう。その薬は蛇の剥け殻を焼い薬とするものだろうといわれる。

 塩井の糀屋の味噌の六尺桶一本、これ酸(す)かくしてしまったら糀屋の身上がつぶ れる。ところがその味噌なめたら酸っかくなってしまっていた。それから何とし たもんかと、毘沙門さまに味噌を供えて、一週間以内に必ず治るように御祈祷し てもらうべと、祈祷してもらった。そしたらば、和尚さま言うには、
「朝祈祷一週間するから、一週間のうちは絶対にその味噌を開けていけない」
 て、印符しておけと言われて、ぐるりにすっかり印符を貼っておいた。
 ところがその家の婆さまは見たくて見たくて仕方なくて、待っていられなくな り、五日目の朝に半分ばかり印符をとって開けてみたら、そこには一面真黒な蛇 みなこっち見て口を開けていたど。それで婆さまがびっくりして、何も言わず、 飯も食わないで、寝てしまった。
 そして、一週間目に、娘に和尚さんを招んでくるように言いつけた。和尚さん がきて、
「何だ、あのように今日まで印符をはがすなと言ったのに、開いている。これは 困ったことだ。すっかくなっていないかどうか、おれは受け合えない」
 といったそうだ。そして開けてみたら、きれいな山吹色の味噌だったそうだ。 舐めてみたら、ちっとも酸っかくなくなって、中まですかっとよい味噌になって いたっけど。それから糀屋は金持ちになったんだど。そんで二千円の太鼓を毘沙 門さまに寄付して、それが今でもあるんだ。
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