27 泣き上戸

 こいつも芸なしの男でよ、芸なしていうたらええんだかどうだか、泣くことが 上手だていうんだな。泣き上戸。
 その泣き男にも、何にも芸がなくて、飯食(か)せて生かしておかんなね男だげんど も、やっぱり一つええことあるんだから、殿さまに、
「こいつ飼っておかねか」
 というたところが、
「何か、かにか、ええことあるんだから、飼っていてみんべ」と。
 そして戦いが始まったとき、まずそれは敵の兵隊が城めがけて伐り込んでくる その時、あわれしごくに泣き男を立てて、泣かせたど。さしもの敵も、とにかく むごさい(かわいそう)というんだか、いたみ入ってというんだか、哀れしごく なことで、そう、城を落とすだけの力がなくなってしまう。そこで殿さま言うに は、
「やっぱり何かかにか、人には芸があるもんだ。おれもこの泣き男を飼っておく べ」
 と言うたど。
(斎藤捷太郎)
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