26 大まくらい

 人間は、どなたでも一つの芸は、ええものを持って生まれてくるというか、授 かってくるってよ。
 まず、大まくらいの一人がいだったてな。一食に五升の飯(まんま)を食う。
 ある時、五升ずつ食れっこんだら誰だって飼っておかんね。んだげんども、こ ういう五升の大まくらいがいたもんだから、殿さまに、
「何にも、こいつに芸はないんだ。ほだげんども、飯食うことは、めったにくっ たにも居ない人なもんだ。殿さま、そいつを飼っておいたら、なじょだ」
 と、すすめたど。
 そしたところが、殿さまはよ、
「芸なしではあっけんども、珍らしい。五升の飯食う者は」
「米櫃のあらんかぎりは飼うから、おれんどこさ連(せ)てこい。おれぁ飼っておっか ら」
 そして毎日、一斗五升食わせっだど。ところがそのお殿さまに珍らしい大きな ホラの貝があっから、そんでそのホラの貝さ吹き込む人は、おそらく近在近辺に いない。もしやうちの殿さまの方で、このホラの貝さ打ち込まれるくらいの人が いないかどうだかと思ってお話合いに行ったどこだけ。
「そげな、ホラの貝なんていうもの見たこともないげんども、何大きなホラの貝 だか、そいつさ吹っ込む人は、いないかと、思うげんども、どれだけ大きいもん だ」
 と言うたところが、五升飯を食ってた男が陰で聞いてて、
「おれは毎日、こうして一斗五升も殿さまの米櫃を食って生かしてもらって来た んだ。おれは何にも芸はないげんども、穀つぶしで通って来たおれだげんども、 殿さまに今まで生かしてもらって来た、その御恩返しだ。おれはそのホラの貝だ ら、何とか吹っこまれる。鳴っかなんねが、まずおれにさせてみて呉ろ」
 と、こういう話になったど。
 殿さま、「いままで食せっだ穀つぶしだ、一旗上げられっか、ほんじゃ貴様やっ てみろ」と言うことになって、三・四日待ってたところが、三人がかりでその珍 らしい大ホラ貝をもってきたというわけだな。んで、
「こいつさ吹き込まれれば、天下一の大男なんだから、張りきってやれ」
 ていうわけで、その五升飯の男が吹っ込んだところが、あたりほとりの山もく ずれ落ちるほどの大声になったど。
(斎藤捷太郎)
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