9 しっぺい左ヱ門

 神さまに「人年貢」上げないど、村で騒動起きっどか何とかていだそうだ。そ んで毎年神さまに、人年貢欲しい時には現われっかったど。何て言うかというど、 その怪物は夜な夜な出て、
   デッツクバッカ スッカッカ
   デッツクバッカ スッカッカ
   西の向えのしっぺい左ヱ門に
   このことかまえて開かせんな
   ピーロ ピロン
 なていうごんだそうだ。
 夕方になっど、誰も表にいねがったていうな。男だって稼ぎ人だって、その時 分になっどいながったど。
 そこさ旅から和尚さまみたいな格好しった者来たったど。
「なんだ、この部落では明るいうちに戸を閉めて、誰も稼いでいねざぁ、どうい うわけだ」
 て聞いたど。そうすっど、
「この部落の神さまさ、何者だか来て、子どもさらって行く。どこそこのが、昨 年行ったげんど、今年もその時期は来たのだはぁ。そんでそいつ恐っかないから、 みな夕方なっど誰もいねなだはぁ」
「その音はなじょなもんだ」
 て、和尚さま聞いだてだな。
   デッツクバッカ スッカッカ
   デッツクバッカ スッカッカ
   西の向いのしっぺ左ヱ門に
   このことかまえて開かせんな
   ピーロ ピロン
「そんなこというようだ」
「しっぺい左ヱ門ざぁ、誰かいねぇか」
 和尚さま、聞いだてだな。
「ここらに居ねごんだ」
「どこにか、しっぺい左ヱ門ていうのが居たにちがいない」
 和尚さまはあちこち聞いて歩いたそうだ。そうしたばあるところに、しっぺい 左ヱ門ていう犬ぁいたっていうたな。
「はぁ、化けものだ。たしかにこの犬のごんだかも知んねぇ」
 ていうわけで、そして事(こと)理由(わけ)話して犬借りて来たていうな。そして暗くなる待っ てで、神さまさ、犬を連れて行ったってな。すっど犬さけしかけたら、犬はそこ さ行って、これはワンワンと吠えてよ、取っ組みあいしたてだな。暗くて見えね がったげんどよ。
 そしてその犬の音しねぐなったから、行ってみたば、すばらしく大きなムジナ だったど。それからはその部落さ出なくなったど。
(小関清輝)
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