8 山伏と狐

 山伏ぁいだったけずも。
 山の方さ、ずうっとホラの貝もって行ったど。ほうすっど道傍に狐眠ってだけ ど。「さぁ、この畜生、おどかしてくれっか」て、山伏ぁ、狐の耳元さ行って、ブォ ウとホラの貝吹いたずも。そうすっど狐魂消て、いっさんかけて逃げて行ったっ てな。
 と、まず、杉の木の根っこさ、山伏は尻かけていたど。したら何だか、向うの 方でケンコンケンと荼毘(だみ)の音ぁする。
「なんだか、おかしいな」
 ているうちに、だんだん近くなってくる。いや何(なえ)だ。おれんどこさ来るな。ほ うすっど、デンドンデン、デンドンデンなて、荼毘はだんだん、よくよく傍さ来 たんだな。
「ああ、ここ、ええがんべ」
 なて、掘って、棺埋めて行ってしまったんだな。そして棺の中から白い衣裳着 た幽霊出てきた。いや怖っかねぇから、山伏も木さのぼって、やんやんなて、お 経詠んだわけだべ。ほうすっど百姓は田の草取りしてで、
「何か木の上さあがって、山伏はお経を詠んでいる、何だべ」
 なていたごで。
 と、山伏はだんだん眼(まなぐ)さめて見て、真っ昼間なんだな。魂消て、こんど降りて みたら、何もない。
「ははぁ、おれ、狐どこ、驚(おど)かしたから、罰当ったな」
 て、やっと分ったなよ。狐の返報がえし食ったんだど。どーびんとん。
(遠藤昇)
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