7 牛方と山姥

 魚売り、山手の方さ箱背負って、売りに行ったったな、まず、「さば、さば」て、 魚売り、さなって(触れて)出かけた。だんだん行ったところは、日暮れてしまっ てはぁ、
「困ったことした、こりゃ」
 なて、向うの方見たれば、つうと灯(あか)しが見えた。
「あの家さ行って、今夜たのんで泊まるほかないな」
 ずうっと行った。
「お晩なったっし」
 そしたら、ばば出てきた。
「いや、おれ、魚屋(いさばや)だが、かまわず来てしまった。今晩一晩泊めてくんにゃえか」 「おお、魚屋か、魚一つ出してみろ」
 出した。したればそのばば、つるって言うけぁ、呑んで、
「いま一つ」
 魚屋、何とも仕様ない。また出す。またつるっと呑んだ。みな呑まっでしまっ た。
「さぁ、こりゃ困ってしまった」
 なて、そいつは鬼ばばなんだな。こんどは魚屋どこ食う気だもな。
「こんどはお前どこ呑むぞ」
 なて、魚屋も恐っかねぇもんだから、まず命からがら逃げた。どうだというこ となくな。どこらさ行ったていうことない。やたらに逃げてしまったもんだから な。
 ところがそこに大きい川のどこに杉の木あった。何とも仕様がない。逃げたて なんねもんだから、その杉の木さ魚屋のぼって上の方にいた。その夜は月夜で、 みな見える皓々(こうこう)たる月夜だも。そうすっど後から、
「魚屋、どこまで行ったて分んねぞ」
 なて言うつけぁ、追っかけて来たそうだ。そうすっど魚屋、まず、しんぽえの 方(先の方)さのぼって、ぴたっとしった。川さ写っていたってだな。鬼婆、川 の中にいたと思ったってな。
「そこにいたな」つけぁ、ずうっと水呑み干(ほ)した。何にもないもんだから、また  どうと出した。また月夜だから写る。
「まだいたな」つけぁ、また呑んだ。ほんでもさっぱりないもんだから、どうと 出してしまう。
「いや、こんじゃ分んねな。はて、家さ行って甘酒でも飲むべな」
 ていうわけで、戻ってきたど。
 こんど、魚屋、そろそろと降りてきて、後からそっと追っかけだんだな。ほし て魚屋きて、火棚さあがって、葭(よし)の杖持(たが)って、甘酒温まったら飲んでくれるつも りだも。そしたらばば、甘酒温まった。魚屋、火棚に上がって葭の杖で甘酒のん でしまった。そして目さまして、「ねぇなあ」ていた。
「さっぱりない。こんでは寝る他ないな」
 そういうたって、鬼婆。そんで仕様なくて、「木の唐戸か、石の唐戸か」なて言 うど、魚屋、「木の唐戸、木の唐戸」て言うた。
「はぁ、ほんじゃ、木の唐戸さ入って寝っか」
 て、木の唐戸さ入ったんだな。そうすっど魚屋は、
「よし、殺して呉んなね、木の唐戸に入ったな、これはよかった」
 ていうど、魚屋、そっと火棚から降りて、今度大きい釜さ水汲んで、焚きもの どんどん焚いて、湯をわかした。カーン、カーンて湧いた。そしたら鬼婆、
「やぁ、長者どののカンカン鳥は鳴く」
 なんて、何も知しゃねで寝っだ。それからこんど、
「木だから、キリでもんで…」
 て、キリキリ、キリキリと穴をあけた。「あっ、ねずみはいた」
 鬼婆、何気ぁつかね。そうすっどこんど、お湯の煮立ったな、ジョーと入れた。 そうすっど鬼婆、焼き殺されるんだから、「助けてくろ」なて言うわけだ。
「庭の隅(すま)こと、流しの隅こに、銭埋めっだから、それやっから、助けて呉(く)ろ、助 けて呉ろ」
 なぁに、魚屋、どんどん熱い湯を入れてしまった。とうとう鬼婆死んでしまっ た。
「はぁ、庭の隅こと流しの隅こていうたな」
 というど、魚屋行って掘ってみたらば、銭瓶さ入っであった。そうしてはあ、 魚屋、銭背負ってはぁ、明るくなったべしすっどはぁ、家さでんでんと来たった ど、どーびんとん。
(遠藤昇)
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