5 寝小便こき

 ある家さ野郎こぁいだったど。その野郎こは寝小便こきだったど。ほうすっど 家では何とも仕様ないもんだから、小便布団背負わせて、
「どさでも行け」
 て、おんつぁっで(叱られて)晩方、泣き泣き出て行ったったな。ところがだ んだん暗くなってはぁ、泣き寝入りしたようなもんだな。アンアンアンていた。 そしたら、何だか夜中頃になったっか何だか、真暗になって人の音ぁして、やん やんていう音するって見てたば、鬼共ぁきて酒盛り始めた。ところが踊りおどっ たり、けだものいだってだな。鳶だの、いたちだの、歌ったり、鳶ざぁ「ピニョ ロー、ピニョロー」というし、いたちの化けものは、「ウンコロコロコロ、スルメ が化けたかスッコロリン」なて歌う。
「何だ、そこに野郎こいだな。こっちゃ引張ってこい」
 なて言われた。そうすっど布団背負ってたもんだから、
「何背負ってだ」なて、
「いや、寝小便むぐして、あぶだぶて来た」
「何踊れ、踊れ」
 なて言わっで、こんど恐っかねぇもんだから、踊りおどれなて言わっだって。 知ったもんでないべ。ほうすっど口から出放題、
   デッツクバッカ ヒャーラロ
   お上(かみ)の御用で エッサッサ
 なて、手まねで踊った。
「ああ、上手だ、ああ、上手だ」
 鬼どもは、そうして今度切(せつ)ないもんだから、かまわず背負ってで離さね。その 布団は。
「そつけなもの、何だ背負ってっことないから、降(お)どせ、ぶんなげろ」
「いや、こいつかまわず背負っていんなね」
「ほんじゃ、直してくれっから」
 て、その布団降ろさせて、別の布団呉れたど。そのうち東の空白んで来たの見 て、鬼共は、「それ」なて下へ行ってしまったんだな。そうすっど、野郎こは山か ら下って家さ朝御飯頃来たんだ。そうしてまずその話したら、隣のばば、
「火一つ呉っじぇおくやい」
 なて、朝げ来たずうわけよ。そうすっど野郎こ来たもの、
「どこさ行ってきた」
「いや、おら家の野郎こはまず、小便むぐしだ。昨日(きんな)の晩から家さなの来(き)ずがん  ななておどしつけだば、小便布団背負って山さ行ったなよ、鬼になおしてもらっ て来たって、来たな」
「何、ほんじゃ、おら家でもそうしんなね」
 というわけで、火なの忘せてしまったべぁ、戻ってて、隣のも小便むぐし野郎 こに小便布団背負わせて、山さやった。そうすっどそれも泣き泣き行ったってわ けよ、だんだん行った。山さ行ったら暗くなった。
 まず、木の根っこさ尻かけていたんだべ、あれ。そうしているうちに、ヤンヤ ンて、鬼共は来たんだな。ほうすっど酒盛りはじめて、
「何だ、そっちの野郎こ、昨夜(ゆんべな)いたのに、また今晩いたな」
 なて言うわけだ。こんどその野郎こ、恐っかないもんだから、アンアン、アン アンて泣いてばりいた。
「何だ、この野郎、ほに、昨夜(ゆんべな)のと違うな」
 どかて、別な小便布団あったな、背負わせらっで、夜明けてもどって来たど。 ほしたらばば、
「おら家(え)の野郎、なおって来た」と思って、「歌で来たな」なて聞いっだば、アン  アン、アンアンて泣いて来たど。んだから人の真似ざぁするもんでないんだけど。 どーびんとん。
(遠藤昇)
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